第百三十四話「裁定の鐘」
教国・大聖堂。
広場は、人で埋め尽くされていた。
信徒。
民衆。
そして。
“選ばれること”を望む者たち。
熱気が、渦巻いている。
その中心。
壇上に立つのは――
アルヴェリオ。
教団の頂点。
白い衣。
穢れなき象徴。
その目には。
疑いが、一切ない。
ただ。
“信じている”。
それだけ。
その背後。
一歩引いた位置に立つ男。
カルディス。
副幹部。
視線は冷静。
人の流れを、熱を、全て計算している。
そして。
さらにその奥。
人混みに紛れた影。
帝国の者たち。
誰も気づかない。
だが。
すべてを見ている。
「――静まれ」
アルヴェリオの声。
柔らかい。
だが。
逆らえない。
一瞬で、沈黙が訪れる。
「我々は、選ばなければならない」
静かに語る。
「この世界を」
「誰に委ねるのか」
空を見上げる。
光の球。
すべてを支配する存在。
「神か」
「ドラゴンか」
「それとも――」
一瞬の間。
「人か」
ざわめき。
だが。
否定はない。
その言葉は。
“希望”だった。
「争いは終わった」
「だが」
「自由もまた、失われた」
人々の心に刺さる。
違和感を、言語化する。
アルヴェリオは、ゆっくりと手を掲げる。
「だからこそ」
「我々が決める」
「未来を」
そして。
宣言する。
「――裁定者選定大会を開催する」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
爆発的な歓声。
熱狂。
人々の目が、輝く。
「選ばれし者が」
「神の代行者となる」
「そして」
「空の在り方を、決める」
アルヴェリオは、疑っていない。
本気で、そう信じている。
だからこそ。
人は、惹かれる。
その後ろで。
カルディスが、わずかに目を細める。
そして。
静かに、補足する。
「大会は、全勢力に開かれる」
「教国、王国、連邦、アルカ・ドラグナ」
「そして、帝国、海洋諸国連合も」
その一言で。
空気が変わる。
世界規模の出来事へと変貌する。
「力ある者」
「志ある者」
「すべてを受け入れる」
カルディスの声は。
現実的だ。
そして。
広げる。
人を。
世界を。
裏で。
帝国の男が、静かに笑う。
「……いい」
「これで、“鍵”は来る」
小さく呟く。
誰にも聞こえない。
だが。
確信している。
場面は戻る。
アルヴェリオが、最後に言う。
「これは戦いではない」
「裁きだ」
「そして」
「未来を選ぶ儀式だ」
純粋な声。
疑いのない言葉。
だからこそ。
危うい。
人々は、熱狂する。
信じる。
進む。
その先にあるものを知らずに。
世界は。
ひとつの場所へと、収束していく。
塔。
遺構。
そして。
“裁定”。
すべては、そこへ。




