第百三十三話「ようやく、並ぶ」
一年が、過ぎていた。
戦争はない。
だが。
世界は、決して穏やかではなかった。
帝国は塔を伸ばし続け。
教国は教団の影響を強め。
アルカ・ドラグナは独自の道を歩み。
そして。
王国は――
“取り残されないために”動き続けていた。
王都。
重厚な会議室。
長い机の両端に、二つの勢力が向かい合う。
王国。
そして。
リュミエル連邦。
連邦の使節団は、無駄のない装いだった。
装飾は少ない。
だが。
洗練されている。
合理。
それが、そのまま形になったような存在。
「……ここまで長かったな」
クロノスが、小さく呟く。
隣で。
レグナが、静かに頷く。
「ええ」
「一年」
「交渉、牽制、試し合い」
「全部やった」
短く言う。
だが。
その裏には、膨大なやり取りがあった。
連邦は、簡単には動かない。
彼らは、戦争のない世界で生きてきた。
だからこそ。
無駄な衝突を、徹底的に嫌う。
そして。
“確実な利益”がなければ、絶対に手を組まない。
「……王国の提示した条件は、理解した」
連邦側の代表が口を開く。
落ち着いた声。
感情がほとんど乗っていない。
「だが、確認したい」
視線が、レグナに向く。
「本当に、帝国と対立する覚悟があるのか」
静かな問い。
だが。
重い。
レグナは、一切迷わない。
「ある」
即答。
「帝国は、均衡を崩す」
「それは、この世界にとって最も危険な行為よ」
視線は、揺れない。
「あなたたちも、理解しているはず」
連邦代表は、わずかに目を細める。
「……理解はしている」
「だが」
「我々は、“勝てない戦い”はしない」
現実主義。
それが、連邦。
クロノスが口を開く。
「勝てる形にする」
全員の視線が、クロノスに向く。
「王国は“鍵”を持ってる」
「アルカは“ドラゴン”がいる」
「連邦は“頭脳”だ」
短く。
だが、核心。
「三つ揃えば、帝国は動けない」
沈黙。
連邦側の空気が、わずかに変わる。
合理的な思考が、回り始める。
「……アルカ・ドラグナ」
代表が言う。
「すでに接触済みか」
「済んでる」
クロノスが答える。
「条件付きで合意してる」
「自由な空を侵さないこと」
連邦代表は、少しだけ考え。
「……興味深い」
と呟く。
「つまり」
「三勢力で均衡を保つ、と」
「そういうこと」
レグナが言う。
そして。
一歩、前に出る。
「これは戦争じゃない」
「未来のための“配置”よ」
その言葉。
重い。
そして。
正しい。
長い沈黙の後。
連邦代表が、ゆっくりと口を開く。
「……いいだろう」
その一言で。
空気が、変わる。
「リュミエル連邦は」
「王国と同盟を結ぶ」
静かに。
だが。
確実に。
世界の勢力図が、変わった。
クロノスは、息を吐く。
「……やっとか」
レグナも、小さく笑う。
「ええ」
「ようやく」
そして。
二人は、同じ方向を見る。
帝国。
塔。
そして。
まだ見ぬ未来。
均衡は、整った。
だが。
それは。
嵐の前の、静けさにすぎなかった。




