↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
129/167

第百二十九話「知りたいという罪」

 帝国・地下施設。


 深く。


 静かで。


 そして、閉ざされた場所。


 石ではない。


 金属の壁。


 外界とは、完全に隔絶されている。


 その一室。


 机。


 椅子。


 そして。


 大量の資料。


 そこに、一人の女性が座っていた。


 リゼル。


 腕に拘束はない。


 足にも、鎖はない。


 だが。


 ここから出ることはできない。


(……皮肉ね)


 小さく、息を吐く。


(閉じ込められてるのに)


(こんなに“自由”な環境)


 机の上には。


 星図。


 記録。


 未知の観測データ。


 王国では、見られなかった情報。


 それが、無造作に置かれている。


 扉が、静かに開く。


 数人の男。


 帝国の軍服。


 その中の一人が、前に出る。


「体調は」


 短く問う。


「最悪よ」


 リゼルは即答する。


「帰してくれないならね」


 男は、表情を変えない。


「それはできない」


 淡々と。


「あなたの知識が必要だ」


 リゼルは、視線を逸らさない。


「断る」


 即答。


 迷いはない。


「私は王国の研究者よ」


「帝国に協力する理由はない」


 沈黙。


 だが。


 男は、あっさりと言った。


「報酬を用意している」


「……は?」


 一瞬、リゼルの表情が崩れる。


「帝国の資源」


「すべてを使って構わない」


 淡々と続ける。


「研究施設」


「人員」


「記録」


「必要なものは、すべて用意する」


 リゼルの目が、わずかに揺れる。


「……何を」


 低く、問う。


 男は、まっすぐ答えた。


「神を呼んだ世界で」


「神に“願いを伝える方法”」


「ドラゴンが移動する理由」


「そして――」


 一瞬、間を置く。


「彼らの弱点を解き明かして欲しい」


 空気が、重くなる。


 リゼルの呼吸が、わずかに浅くなる。


(……そこまで、知りたいの)


 男は続ける。


「さらに」


「空飛ぶ遺構へも、案内する」


 その言葉。


 完全に、核心だった。


「……」


 リゼルは、何も言えない。


 それは。


 研究者として。


 “最も知りたい場所”。


 原初の遺構。


 神と直接繋がる場所。


 王国でも、限られた者しか触れられなかった領域。


 それを。


 “自由に調べられる”。


 ありえない条件。


 そして。


 最高の条件。


「……ふざけないで」


 リゼルは、絞り出すように言う。


「そんなもので」


「私が動くと思ってるの?」


 男は、即答しない。


 ただ。


 静かに言った。


「思っている」


 その一言。


 否定できなかった。


(……最低ね)


 自分でも、分かっている。


 心が、揺れていることを。


(私は……)


(何のために研究してる?)


 王国のためか。


 人のためか。


 それとも。


(……知りたいから)


 その本音が、浮かぶ。


 星を見てきた。


 神を観測してきた。


 ドラゴンの軌道を追ってきた。


 だが。


 まだ、届いていない。


 “真実”に。


「……」


 沈黙。


 長い沈黙。


 男は、急かさない。


 ただ、待つ。


 選ばせるために。


 リゼルは、ゆっくりと目を閉じる。


(私は――)


 王国の人間だ。


 クロノスがいる。


 レグナ女王がいる。


 そして。


 あの子が、生まれた。


 守るべき世界がある。


 だが。


 それでも。


 消えない感情。


(……知りたい)


 その欲求は。


 どんな理屈よりも強かった。


 リゼルは、目を開ける。


 男を見る。


「……条件がある」


 小さく言う。


 その瞬間。


 何かが、変わった。


 完全な拒絶ではない。


 完全な受諾でもない。


 だが。


 確実に、一歩踏み込んだ。


 男は、静かに頷く。


「聞こう」


 リゼルは、ゆっくりと言った。


「……私は」


「“研究者”として協力する」


「帝国のためじゃない」


「答えを知るために」


 その言葉。


 それが。


 彼女の選択だった。


 そして同時に。


 最も危険な一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。