第百十九話「祝福のかたち」
王都は、かつてないほどの賑わいを見せていた。
城下町の通りには色とりどりの布が掲げられ、花が飾られ、音楽が鳴り響く。
人々は笑い、酒を酌み交わし、今日という日を心から祝っていた。
「いやぁ……ここまでとはな」
城門前で、ガイアスが感嘆の声を漏らす。
「王国の本気、ってやつだ」
隣で、ユークスが腕を組む
「騒ぎすぎかもれしれないけど?」
「いいだろ。こういう日は派手な方が」
ガイアスが笑う。
「……久しぶりね、王都」
ウェナスが、少し懐かしむように呟いた。
「少し変わったか?」
ガイアスが聞く。
「いいえ」
首を横に振る。
「変わったのは、私たちの方」
「――あ、いました」
落ち着いた声が後ろから響く。
振り向くと、一人の女性が軽く手を挙げていた。
「お久しぶりです、先輩方」
リゼル。
以前と変わらぬ穏やかな表情。
だがその瞳は、どこか遠く――空のさらに先を見ているようだった。
「……リゼルか」
ユークスが言う。
「久しぶりだな」
「はい」
小さく頷く。
「こんな日になるとは、正直思っていませんでした」
視線が、城の方へ向く。
「神を降ろした人が、女王と結婚するなんて」
「言い方が雑だな」
ユークスが苦笑する。
「事実です」
リゼルは淡々と答える。
「むしろ、興味深い現象です」
「お前は相変わらずだな」
ガイアスが肩をすくめる。
「今も研究してるのか?」
「ええ」
静かに答える。
「星の動きと、あの“球”の挙動について」
一瞬、空気が変わる。
だがリゼルは気にしない。
「……まだ、完全には解明できていません」
空を見上げる。
「この空は、まだ終わっていないので」
「……今日はやめとけ」
ユークスが軽く言う。
「そうですね」
リゼルは、少しだけ微笑んだ。
「今日は、祝う日でした」
城の中庭。
白い布と花で彩られた空間。
その中央に、二人が立っていた。
レグナ。
クロノス。
ざわめきが、静まる。
祝福の場。
だがそこには、ただの華やかさではない“意味”があった。
「……変わったな、あいつ」
ガイアスが小さく呟く。
「どっちだ?」
ユークスが聞く。
「特にクロノス…」
ガイアスが答える。
「でも、あれでいい」
少しだけ笑う。
「ちゃんと、自分で選んだ顔してる」
式が進む。
誓いの言葉。
クロノスは、まっすぐ立っていた。
戦場と同じ姿勢。
だが――
その理由が違う。
レグナが、静かに言う。
「これより先」
「この者と共に、この国を歩む」
クロノスが続く。
「自分は――」
一瞬だけ、言葉を選ぶ。
「この方と共に、すべてを背負います」
その言葉に、誰も騒がなかった。
ただ、受け止めた。
「……やるじゃねえか」
ユークスが呟く。
ウェナスは、ただ微笑んでいた。
リゼルは、じっとその光景を見つめている。
「……記録しておくべき瞬間ですね」
「何をだ?」
ガイアスが聞く。
「人が、“選ぶ”ということを」
静かな言葉。
そして。
ガイアスは、空を見上げた。
鳥が、一羽。
ゆっくりと低空で旋回している。
「……いい空だな」
その言葉は、誰にも届かなかった。
だが。
そこにいた全員が、同じ空を見ていた。
祝福の形は、一つではない。
それでも。
確かに、この日。
二人は、“選ばれた”のではなく――
“選んだ”のだった。




