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第百二十話「祝福の裏で」

 王都は、祝祭の中にあった。


 通りには笑い声が溢れ。


 旗が風に揺れ。


 夜になっても灯りは消えない。


 女王と英雄の結婚。


 それは、戦争を終えた世界にとって。


 確かな“区切り”だった。


「……ほんとに終わったんだな」


 中庭で、ユークスが空を見上げる。


 その手には酒。


「空は飛べねえけどよ」


「こうやって飲めるだけでも、十分だ」


「……そうだな」


 クロノスが、静かに答える。


 その顔には、かつての緊張はない。


 だが。


 どこか、まだ戦場の影が残っている。


「で?」


 ユークスがニヤリと笑う。


「女王様との生活はどうなんだ?」


「……変わらない」


「嘘つけ」


 クロノスは、軽くため息をついた。


「忙しいだけだ」


 そう言いながらも。


 視線は自然と、城の奥へ向いていた。


 その先には――


 レグナがいる。


 その頃。


 執務室。


「……教国からの使者が、滞在を希望しています」


 侍従が報告する。


「理由は?」


「“新たな教義の共有”と」


 レグナは、ゆっくりと息を吐く。


「このタイミングで、ですか」


「ええ」


 そして、続ける。


「最近、教国内で支持を集めている思想があるようです」


「思想……?」


「“裁定”を掲げる集団です」


 レグナの目が、わずかに細くなる。


「内容は」


「神は降臨したが、何も語らない」


「ゆえに――」


「“人が神の意思を代行するべきだ”と」


 静寂。


「……代行者」


 その言葉は、重かった。


「その集団は、自らを“白焔教団”と名乗っています」


「白焔……」


「“穢れを焼く”のではなく」


「“正しき者を選ぶ”」


「そういう思想のようです」


 レグナは、しばらく考える。


「……過激だけど」


「理解できなくはない」


 神はいる。


 だが、何も命じない。


 その“空白”に。


 人が意味を求めるのは、自然だった。


「支持は?」


「一部では、熱狂的に」


「特に、戦争で何かを失った者たちに」


 レグナは、目を伏せる。


「……救い、か」


「はい」


「“自分が正しいと認められる場”として」


 その時。


「失礼します」


 クロノスが入ってくる。


「呼びましたか」


「ええ」


 レグナは、彼を見る。


「教国で、新しい動きがあるそう」


「名は白焔教団」


 その名を告げ、レグナが聞いた内容をクロノスに伝える。


 クロノスは、少しだけ考える。


「戦場の後、そういう話は広がっていました」


「“選ばれるべきだ”っていうやつです」


 レグナは頷く。


「そして彼らは」


「数年後に、“神の代行者を決める大会”を開くと宣言している」


 クロノスの眉が、わずかに動く。


「大会……」


「ええ」


「力、精神、信仰」


「すべてを兼ね備えた者を選ぶと」


 沈黙。


「……随分と大きく出ましたね」


「だけど」


 レグナは、静かに続ける。


「無視はできない」


「人は、意味を求める」


「そして彼らは、それを与えている」


 クロノスは、ゆっくりと頷いた。


「……危険ですね」


「ええ」


「だが同時に」


「力を持つ存在でもある」


 窓の外。


 祝祭は続いている。


 笑い声。


 光。


 だが。


 その裏で。


 新たな“秩序”が、静かに形を作り始めていた。


「……いずれ」


 クロノスが、小さく呟く。


「関わることになるかもしれない」


 レグナは、否定しなかった。


「その時が来る前に」


「見極めておく必要があるわね」


 祝福は、本物だ。


 だが。


 世界は、止まらない。


 新たな思想。


 新たな選別。


 そして――


 選ばれる者たち。

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