第十一話「鍵の応答」
呼び出しは、朝だった。
「クロノス、任務だ」
上官からの短い一言。
だが、その内容は軽くなかった。
「“鍵”に関わる遺構の確認任務」
胸の奥が、少しだけざわつく。
王城から離れた場所にある古い遺構。
そこへ向かうことになった。
「単独ではない」
「ガイアス、お前も行け」
「任せてください!」
即答だった。
こいつはいつもこうだ。
「あと一人、同行する」
「リゼルです……よろしくお願いします」
小さく頭を下げる少女。
「軍務局所属。記録と解析を担当している」
(……現場慣れしてなさそうだな)
だが、今回の任務には必要な人材らしい。
俺たちはすぐに遺構へと向かうため、出発の準備を始めた。
ヴェントラの背に乗る。
風を切る感覚。
「おいクロノス!」
横から声が飛ぶ。
ガイアスだ。
「聞いたか!?あの遺構、英雄伝説に出てくる場所らしいぞ!」
「……そうなのか」
「ドラゴンがどうとかって話もあるらしい!」
(またそれか)
「俺はな、いつかドラゴンに乗る男だ!」
「……そうかよ」
適当に流す。
そのとき。
ヴェントラが、わずかに高度を変えた。
(……?)
風が、妙に引っかかる。
あのときと似ている。
戦闘のとき、感じたあの違和感。
(気のせいか……?)
しばらくヴェントラに乗り、海上を飛ぶ。
リゼルはガイアスが乗るワイバーンに一緒に騎乗していた。
高所が怖いのだろうか。
恐る恐る下を覗いては、デカい背中をしているガイアスにしがみ付いていた。
遺構が見えてきた。石造りの建造物だ。
建物の半分以上は崩れ落ちている。
「ここで間違いありません」
リゼルが静かに言う。
「記録にある“認証の場”です」
「認証?」
「はい。“鍵”となる者かどうかを判定する場所です」
胸が、少しだけ重くなる。
(試される、ってことか)
遺構の中は静かだった。
空気が、妙に張り詰めている。
奥に、ひとつの紋章があった。
何も特別なものには見えない。
だが。
(……なんだこれ)
視線が、離れない。
「それが、認証装置だと思われます」
リゼルの声。
「触れることで反応が――」
最後まで聞かずに、手が動いた。
「おいクロノス!」
ガイアスの声。
でも、止まらなかった。
触れる。
その瞬間。
視界が、切り替わる。
空。
知らない空。
誰かの視界。
風を切る感覚。
自分じゃない。
(……なんだ、これ)
次の瞬間。
別の景色。
戦っている。
ワイバーン同士。
そして。
光。
空が、重くなる。
落ちていく影。
(……くそ)
息が苦しい。
さらに。
別の記憶。
ワイバーンに騎乗している男の記憶だ。
空を睨んでいる。
その視線の先。
――巨大な影。
翼。
圧倒的な存在。
(……これが)
次の瞬間。
意識が戻る。
「……っ、は……!」
膝をついていた。
「おい!大丈夫か!」
ガイアスの声。
「……ああ」
呼吸が荒い。
「今、何が起きたんですか……?」
リゼルの声も震えている。
「……分からない」
本当に、分からない。
ただ。
ひとつだけ。
「……誰かの、記憶を見た」
それだけは確かだった。
ヴェントラを見る。
目が合う。
いつもと違う。
あいつも、感じている。
「……お前も、か」
小さく呟く。
ヴェントラが、低く鳴いた。
それが答えだった。
遺構の外に出る。
「認証は……成功したと見ていいと思います」
リゼルが言う。
「反応が確認されました」
「つまり、クロノスは“鍵”ってことか?」
ガイアスが笑う。
「すげぇじゃねぇか!」
「……まだ分からない」
本音だった。
あれが何なのか。
何を見たのか。
何一つ、理解できていない。
ただ。
胸の奥に、何かが残っている。
あの空。
あの影。
(……なんなんだよ)
答えは出ない。
でも。
確実に、何かが動き始めていた。




