第百六十八章 その頃の彼ら 8.「ワイルドフラワー」~アラシの場合~(その2)
「……その前に確認しておきましょう。アラシは他に何かスキルを持っていた?」
「ん。種族固有スキルとして【紡糸 Lv1+】【糸細工 Lv1】【掘削 Lv1】の三つを持っていた。その他に、現時点で取得可能になっているのが【刺繍】、将来的に取得可能らしいのが【魔道具作成】」
「あら? 【刺繍】はまだ取得させてないの?」
「ん。一応皆の了承を得てからにしようと思った」
保留にしておいたところで何の益も無い。さっさと取得させるべきだろうという話になって、ミモザはステータス画面を操作する。結果、アラシは恙無く【刺繍】スキルを取得したようだ。
そこで愈々検討に入る訳だが……最初に問題となったのは、
「スキルツリー制が導入されたって事?」
――これであった。
取得可能なスキルと、そのスキルを取得した場合の成長ルートが、スキルツリーとして明示されるかどうか。これは確かに、プレイヤーの成長方針を左右する大問題である。が、その可能性は早々に棄却される。
「それは無い。プレイヤーが偶発的にスキルを拾うというのがSROの売りなんだから、スキルツリー制とは真っ向から対立してる」
「リーダーの言うとおりね。少なくともプレイヤーに関しては、スキルツリーが表示される事は無いと思う」
……そう、〝プレイヤーに関して〟は。
「使役獣は別って事?」
「確かに、使役獣がスキルを拾ったって話は聞かないから……」
「スキルツリー制の導入も考えられなくは無いけど……」
「けど、今までそんな話は聞いた事が無いよ?」
「或る程度成長している個体は、既に成長の方針が決まってるって事じゃない? その場合、スキルツリーの御利益は小さいだろうし」
「つまり……スキルツリーが表示されるのは幼体だけ?」
話の筋は通りそうだが、生憎とエビデンスというものに欠けていた。
「パピィとミックはどうだった?」
「ん~ん。今確認したけど、スキルツリーも取得可能スキルも載ってない」
「同じく。抑『マスターへのお報せ』っていうのが載ってない」
つまり幼体というのは、必要条件かもしれないが十分条件ではない。
では、他に必要な条件は何がある?
「つまり、パピィ・ミックとアラシの違いだよね?」
「えーと……」
「脊椎動物か無脊椎動物か。或いは内骨格か外骨格か」
「そうだけど……そうじゃなくて……」
「恒温動物か変温動物か」
「それでもなくて……ないよね?」
「多分……」
「生産スキルの有無?」
「生産スキル……【魔道具作成】?」
「そっちじゃなくって【糸細工】の方。〝細工〟ってあるからには、やっぱり生産スキルじゃないの?」
「それかぁ……」
「種族固有スキルっていうのもキーかもね」
疑わしげな要因は見付かったが、断定するにはサンプルが少ない。現時点でこれ以上の追究は無理だろう。
それに、考えるべき点はもう一つある。……そう、生産スキルが鍵だとすると、逆に戦闘スキルが鍵になっていないのはどうしてか?
「〝SPが定量に達し〟てないとか?」
「それだって運営側の設定でしょ? もう結構な数の使役獣が見付かってるんだから、そういう個体がいたっておかしくないわよね……運営にその気があるんなら」
「つまり……運営は生産スキル推し?」
「と言うより、抑生産スキル持ちの使役獣というのが初耳なんだけど」
これについても断を下すには、やはりサンプルが不足している。
取り敢えず、アラシの修行は生産スキルから進めた方が良いだろうという事で、皆の意見が一致した。目指すは魔道具の作成である。
(『スパイダー』に魔道具を作らせるとは……『ジャガー』の事といい、ここの運営は侮れない)
「ミモちゃん、何か言った?」
「ん、何でもない」




