第百六十八章 その頃の彼ら 7.「ワイルドフラワー」~アラシの場合~(その1)
場面は戻って「ワイルドフラワー」。最後に残った召喚獣であるトラップスパイダーのアラシの能力検証が、今始まろうとするところ……なのだが、
「「「「……魔道具?」」」」
「ん。魔道具」
それに先んじて、アラシの使役主であるミモザが新情報を開示をしたため、一同打ち揃って困惑の表情を浮かべる事となった。何しろ……
「アラシのステータス画面を確認してたら、『マスターへのお報せ』という見出しがチカチカ点滅してた。それをタップしたらメッセージが出た」
「「「「メッセージ」」」」
「ん。《アラシのSPが定量に達しました。取得できるスキルを表示します》――ってあった」
「「「「………………」」」」
魔女っ子パーティと通称される「ワイルドフラワー」は、全員が使役獣と契約している。つまり、ミモザ以外の四名も従魔や召喚獣を使役している。
だが……そんな胡散臭いメッセージなど、誰一人として目にした事は無い。と言うか、「使役者友の会」――正式名称「不遇な使役職のための集い」――の掲示板でも、そんな情報を見た事は無い。
「……色々と突っ込みたいところはあるけど、それは後にしましょう。話の続きを聞かせてもらえる?」
パーティを裏で仕切る黒幕・カナがそう断を下した事で、一同も追及の矛先を収める。確かに、情報の全容を確認するのが先だろう。
「ん。メッセージをタップすると、取得可能なスキルというのが出て来た。【刺繍】だった」
「「「「【刺繍】」」」」
【刺繍】はレアでもないコモンスキルで、文字どおり刺繍の技術を補正するスキルである。金策の手段としても有用なのだが、刺繍糸や布が入手できて、なおかつ腰を落ち着けて作業できる環境が必要なので、冒険者よりも生産者のプレイヤーに取得者が多い。
しかし、トラップスパイダーがそんなスキルを持っている、或いは取得できるというのは初耳なのだが……
「運営も何考えてんだか」
「鶴なら機織りのスキルくらい持ってそうだけど、クモだもんねぇ……」
「糸繋がりって事なのかなぁ。でも、そしたらマハラちゃん……デスヘッドの幼虫も持ってるって事?」
「あのなセン、芋虫がどうやって刺繍とかするんだよ? あの短い脚で」
「む~」
「いやでも、ここの運営の事だから」
「それは……いや、そうか……」
魔女っ子一同が騒めく中、
「話にはまだ続きがある」
――というミモザの一言で、ピタリと騒ぎが収まった。確かに、最初にミモザが口にしたのは「魔道具」という単語であった筈。【刺繍】はそれにどう絡む?
一同が問題を正しく理解したのを確認した後で、ミモザは改めて口を開く。
「【刺繍】スキルの後に、灰色で表示されているスキルがあった。それが――」
「【魔道具作成】だった……という事かしら?」
「ん。【魔道具作成】だった」
ここで話は冒頭の発言に戻るらしい。つまり、これで報告は完了したという事か。
「あ、ちなみに〝お報せ〟の『マスター』の部分は変更可能だった」
「……変更が可能?」
「ん。『ご主人様』も『お嬢様』も、『女王様』も『アニキ』もいけた。今はデフォに戻してる」
「「………………」」
「運営も本当に何考えてんだか……」
「だってSROの運営だし……」
どうやらこれで正真正銘、報告すべき情報は報告し終えたようだ。なら――ここからは検討の時間である。




