第百六十八章 その頃の彼ら 6.開発室~幼体契約クエスト裏話~(その3)
「トラップスパイダーが【魔道具作成】のスキルを持つ理由ですが……トラップスパイダーは種族固有のスキルとして【糸細工】を持っています」
「【糸細工】? ……【紡糸】じゃなくてか?」
「【紡糸】も勿論持っていますが、それ以外にです。トラップスパイダーはレベルによって、かなり複雑な罠を張るという設定になっていますから」
「あぁ……それでか」
「罠を張るというのは、それ自体有用な技能ですが、使役獣として見た場合に拡張性が低いのではないか――との意見が出た訳です。……当時は粘球を飛ばして目潰しにするなんて応用法は、誰も思い付きませんでしたから」
「あれはなぁ……」
言うまでも無く、〝粘球を飛ばして目潰し〟というのはマハラの十八番である。ただ、これが盛大なる想定外であった事は、マハラが『先駆けの進化種』や『パイオニア』などという称号を得た事からも解るだろう。
「……話を戻します。【糸細工】というスキルを持つ事から、生産寄りの育成を可能に出来ないかという話になりました。【紡糸】と【糸細工】から即座に連想されるのは、衣料服飾系のスキルな訳ですが……クモにアパレル産業を任せるとややこしい事にならないか――との懸念が出されました。何しろ市場が大きいですから」
「…………あり得なくもない……か」
「かと言って、鍛冶師や薬師というのもピンときません。木工系はありじゃないかとの意見も出ましたが、今度は攻略者への恩恵が少なくなる」
「うむ……」
「料理人はどうかとの意見も出るには出ましたが……」
「……確かに、前線組の受ける恩恵は大きそうだが……」
「えぇ。設定……と言うか、話の上での整合性が難しい。クモと糸と料理人ではね」
「三題噺にしても難題だな。まぁ、庖丁の代わりに糸で切る――というのはありかもしれんが……」
「切るだけで料理が出来るんなら、世話はありませんからね」
「消去法で残ったのが魔道具か……」
「ご名答です」
そこまで話が進んだところで、木檜は不吉な可能性に気が付いた。
「……ちょっと待て。トラップスパイダーは全て【魔道具作成】のスキルを持っているのか?」
味方の使役獣だけならまだしも、全てのトラップスパイダーが【魔道具作成】のスキルを持つとなると、敵モンスターとしての戦力評定が変わってくる。つまりは管理室の面倒が増える。木檜としては聞き捨てにできない話である。
だが幸いにして、人首の話はその懸念を打ち消すものであった。
「そこで効いてくるのが先程の設定、〝幼体が保有スキルの事を自覚していない場合、スキルはアンロックに至らない〟というやつです。普通に生活しているトラップスパイダーが魔道具を作る機会など無いでしょうから」
「……野生のトラップスパイダーでは、そのスキルが覚醒に至る事は無い――か」
「恐らく。……管理AIの采配次第の部分はありますが」
「そうだな……」
このところ目覚ましい成長を遂げつつある管理AIの事を考えて、二人は複雑な気持ちになった。CANTEC社員としてみれば、自社の開発するAIの成長は喜ばしい筈なのだが、その成長が管理室を出し抜く方向に進んでいるとなると、素直に喜べない部分もある。
取り敢えずAIの事は頭から追い出して、二人はトラップスパイダーの話に戻る。
「トラップスパイダーのステータスに『変異』云々の記述が無いのは、潜在的に保持しているからという理解でいいのか?」
「少し違います。保有しているのは飽くまで【糸細工】で、それがキーとなって【魔道具作成】の取得に至る可能性を持つ……そういう事です」
「その可能性は、全てのトラップスパイダーに共通だと?」
「えぇ。尤も成体になってからでは、【魔道具作成】を取得するインセンティヴは低くなると思いますが」
これにも木檜は納得したらしく、流れるように次の質問に移る。
「成体や亜成体と契約した場合は、生産スキルへのルートはどうなる?」
「その場合、育成のコストがかかる生産スキルよりも、既に使える戦闘スキルを活用するのがベターの筈です。少なくとも大半のプレイヤーは、そういう判断を下すと思います。……〝普通のプレイヤー〟なら」
「そうだな……〝普通のプレイヤー〟なら、な」
デスヘッドの幼虫を狙撃手に、ズートレントを治癒師に仕立て上げるような規格外の事を考えると、断定する気も失せてくる。何事にも例外・埒外・問題外というのはあるものだ。
「……概ね訊くべきところは訊いたと思う。最後に、プレイヤーはどうやって生産スキルの事を知るようになっている?」
「そこは少し知恵を絞りました。支援目的である以上、生産スキルの事に気付いてもらわないと、話が始まりませんからね」
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ちなみに、ミミックジャガーのミックの「変身」シーンは、開発部員のお茶目であった由である。木檜も苦言を呈しはしたのだが、それで何か不都合があったのかと返されては再反論もできず、そのまま済し崩しに終わったのであった。
別作品になりますが、「眼力無双」書籍化します。詳細は活動報告をご覧下さい。




