第百六十八章 その頃の彼ら 3.運営管理室~ミックの場合~
……という会話をモニター画面上で見聞きして、愕然とした表情を並べているのは、毎度お馴染み被害担当部署・運営管理室の面々である。
「……木檜さん、『変異種』にそんな設定、あったんですか?」
「無いな。少なくとも俺の知る限りでは」
「ですよねぇ……」
「だが、こうしてユーザーからの指摘があった以上は知らんぷりもできん。開発の連中に一報入れておけ」
「……開発部から怨まれそうですね」
「設定に『変異種』と記述したのはあいつらだろう」
「説明文の書式とか用字とか、そこまで気にしてる余裕は無かったですからね……開発の時には」
「モンスター毎に担当者が違っていたのも一因ですかね」
「どっちにしたって、俺たちを逆怨みするのは筋違いだ。そう言ってやれ」
「逆恨みと承知した上で、なおも怨みを向けてきそうですね……」
……どうやらカナの懸念は、本来なら「杞憂」であった筈のものを、「慧眼」に格上げしそうな気配であった。知らぬが仏である。
――で、木檜と大楽がそんな会話を交わしていると、何やらモニター前が騒がしい。何事ならんと振り返って見た二人の眼前では、
「何だ!? バグか!?」
「ミミックジャガーの身体が融け出して……」
「あ、いや。……ホーンドラビットの姿に変わった……これ、スキルか?」
画面の中でミックの身体は、一旦ドロリという感じで不定型に溶け、その後に形を変えていった。やがてホーンドラビットに変身したのを見るとどうやら……
「……【擬態】?」
「あれって……こんなグロテスクなもんだったか……?」
「――中嶌、徳佐」
明らかな異常事態を目撃して、頭痛を堪えかねた体の大楽が、いつものメンバーにいつもの指示を出した。
「あ、はい」
「今調べているところだ」
ややして明らかになったのは、
「バグ――じゃない、のか?」
「は、はい。プログラムにも使役獣の挙動にも、明らかな不具合は認められません」
「徳佐……?」
「追記事項として説明があった。あれは〝幼体だから変化に時間がかかっているだけで、成体はもっと素早く擬態できる〟んだそうだ」
「何だそれは……」
「……これは俺個人の非公式な見解だが……昔のアニメだったか漫画だったかに、あんなシーンがあったような気がする。やっぱり従魔が変身するプロセスで」
もうそれだけで、話のオチが読めた気がするスタッフたち。それを再現したいという、ただそのためだけに、態々手間暇かけてあんなプログラムを組んだのか……
「……これも亘理のやつじゃないのか?」
「あり得るな……」
「木檜さん……」
最早お手上げといった表情の大楽に促され、木檜も重い腰を上げざるを得なくなった。
「……解った。この件については、俺が開発の連中に問い質す事にする。トラップスパイダーの幼体の事もあるし、はっきりさせておいた方が良さそうだ」
「お願いします」
「ハイディフォックスも含めた三体について締め上げてくるが……お前らの方でも一応監視を続けておいてくれ」
「解りました」




