第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 17.宿泊所自室~【人形遣い】問題~(その1
実り(?)多かった一日を終えて宿泊所の自室に引き取ったシュウイは、頻りに首を傾げていた。明日からでも村の子供に訊き込みをかけようと思っていた落とし物クエストであったが……自室で改めて考えてみると、どうにも腑に落ちない点が見えてきたのである。
「落とし物クエストだとばっかり思ってたけど……能く考えてみるとこのイヤリングって、蜂蜜の代わりに貰ったんだよね。……だったらこれって、落とし物クエじゃなくって藁しべクエの続きなのかな……?」
これがバッツの花蜜から始まった〝藁しべクエスト(仮)〟の一環だとすると、クエストの舞台は森の中という事になるかもしれない。だとしたら、村での訊き込みなど無駄足ではないのか?
そこがはっきりしないと情報収集にも、延いては今後の計画にも影響する。
いつもならこの手の問題は、頼れる幼馴染みたちに丸投げするのだが、生憎と今は試験前週間。その手の話は口にするなと、匠と茜からきつく戒められている。要一人に相談する手はあるが、その事がバレた日には残る二人から、何を咎められるか知れたものではない。
これが金属絡みの話であれば、迷わずテムジンを頼ったのだが、
「ものは〝白い貝殻のイヤリング〟だもんなぁ……」
どう考えても自衛隊員の守備範囲外のような気がする。それはもう犇々と。
そうなると頼れそうな相談相手は……と考えたシュウイが連絡を取ったのは、
『はいよ~?』
「ご無沙汰してますナントさん。今、いいですか?」
――トンの町に店を構える遣り手商人にして、βプレイヤーのナントであった。
『お~う、久しぶり。丁度僕からも連絡しようと思ってたとこなんだけど、何の用?』
「あー……いえ、ナントさんのお話って、何ですか?」
日頃の幼馴染みたちの反応に鑑みて、自分の相談は長くなりそうな気がしたシュウイは、先にナントの話を聞く事にした。
『あー……いや、昼頃にワールドアナウンスがあったよね? 何か〝パペットマスターシステムが解放された〟とかって。あれって……シュウイ君?』
「あー……はぃ、一応……」
『あ、やっぱり』
何が〝やっぱり〟なのか問い質したい気はしたが、そこはぐっと堪えたシュウイ。この際だから、世間の反応というのを聞かせてもらう事にする。どうせ幼馴染みたちからは聞けそうにないし。
『う~ん、トンの町だとそれほどでもないかな。滞在しているプレイヤーの大半は新参だし。いきなり未知の使役職っていうのもハードルが高そうだしね』
成る程、新人たちは堅実な成長方針を選んだ訳か。どこにどんな罠や陥穽が待ち構えているか判らない――例えば突然町が半壊したり――のがSROであるから、それはそれで手堅い遣り方だと言える。
『あと、肝心の入手ルートが不明というのもあるね』
「……どういう事です?」
自分が意図せず三大使役術――【従魔術】【召喚術】【死霊術】――を解放した時には、割とポコポコと後追いの術者が増えていたような気がするが、今回の【人形遣い】は違うと言うのか?
『と言うか、不明な点が多過ぎるんだよ。どこで何を探せばいいのやら』
「え? ヘルプファイルが解放されたって聞きましたけど?」
『駄目。そのヘルプファイルには、ただ〝ゴーレムを使役する〟としか書いてない』
「わぁ、不親切」
スキルホルダー用のヘルプファイルならともかく、一般プレイヤー向けのヘルプファイルには、そう詳しい説明は載っていないらしい。
『そのせいでさ、前回までは使役術師を探したけど今度もそうなのか、「ゴーレム」単体を探すんじゃないかって、議論が百出紛糾してる』
「あの……〝ゴーレム単体〟って?」
野良ゴーレムの討伐のようなものを想定しているのか? そんな依頼があるのだろうか? ――と、当惑の色を深めたシュウイであったが、ナントの答えは更にその斜め上を行っていた。
『いや、「ゴーレム」っていう単語のイメージが、プレイヤーそれぞれで違っていてさ。具体的には、フィギュアとか縫い包みとか巨大ロボとか』
「あぁ、そういう……」
それは確かにややこしい事になりそうだ――と、納得するシュウイ。実際に手芸店や石材店、果ては武器屋を訪れるプレイヤーが急増して、住人たちを不審がらせているらしい。
「あの……武器屋って?」




