第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 15.お使いクエスト(その2)
連れて行かれた先で説明されたのは、干し肉を作る際に肉を漬け込む桶を洗ってほしいというものであった。
「桶」と言っても手桶のような慎ましいものではない。さすがに業務用なだけあって、かなり大きいサイズである。シュウイなら纏めて数人漬け込めそうなくらい。
新たな雇い主となる肉屋の店主が、干し肉の製造手順を教えてくれたところによると、干す前に一種のソミュール液に漬け込む事で風味を良くするのだそうだが、
「いや、何か知らんが豪ぇ勢いで干し肉が売れてんだそうでよ。作っても作っても追っ付かねぇんだわ、これが」
「はぁ……」
十中八九まで、「満腹度実装」を前にして危機感を抱いたプレイヤーが保存食を買い漁っているせいだろうと思ったものの、確証が無いため黙っておく。だって、変な迸りがこっちへ向いても面倒だし。
「漬け込む時間は一昼夜か、精々が二日ってとこなんだが……注文が多いせいで、次から次へ漬け込まなくちゃなんねぇ訳だ。つまり――」
「桶を洗ってる暇が無い――と」
「そういうこった」
漬け込み液はその都度新しいものに替えないと、できた干し肉の味が悪くなるのだと言う。できれば桶も洗いたいところなのだが、そんな手間が許されないほど忙しいらしい。
「ま、二~三日で一山越えるだろうから、それまでの間働いてもらえりゃいいんだ。何とか宜しく頼まぁ」
「はぁ」
肉屋の店主としては、できれば今からでも始めてほしいところなのだが、そうするには時間も遅いとため、明日の朝から仕事を始める事で決着した。
クエスト受注の諾否を問うメッセージウィンドウがポップしたので、迷わず《Y》をタップしたが……依然としてチェーンクエストに関する言及は無かった。なのでシュウイも、これはそういうクエストなのだろうと、深く考えない事にした。
(お墓掃除のクエストで【洗浄】を貰ったところだし……丁度好いよね)
……と言うか、あまりにもタイミングが好すぎる依頼に、これはデフォルトの依頼なのだろうかとの疑問が湧き起こる。満腹度のネタを拾っているのも気になるし、それに絡んで桶洗いというのは、タイミングがピーキーに過ぎないだろうか。
もしもこれが、〝AIがプレイヤーの保有スキルを参照して依頼を割り振っている〟せいだとすると、さだめしAIも困っただろう……と、自虐的に考えるシュウイ。何せ自分が持っているのは、曲者・際物のスキルばかりなのだ。
(……いや、【調薬(邪道)】に【錬金術(邪道)】はともかくとして……【酒造W】に【鍛冶(基礎)】絡みの依頼が来なかったんだから、それは無いか。何だったら【採集の心得W】だって持ってるんだし)
桶洗いがデフォルトの依頼かどうかはともかく、〝AIがプレイヤーの保有スキルを参照して依頼を割り振っている〟というのは考え過ぎだろう。一つ前のペンチャンの村では、普通に【錬金術(邪道)】と【猩々】で働かされたんだし。
まぁ、自分としては粛々と依頼を遂行するだけだ。余計な事を考えるのは幼馴染みたちの仕事……などと身も蓋も無い事を考えていて思い出した。もう一つやっておくべき仕事がある。




