第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 13.種明かし~運営管理室~(その2)
あの時には、ワイルドビーにとっての入手のコストが基準となって、花蜜と蜂蜜の交換が為された。純粋に市場価格で言うと、「バッツの花蜜」は――あまりに尖った効能のため――需要が少なく、もう少し低い評価となるのだが、ワイルドビーの価値基準に則った場合、あの量がフェアなトレードとなる訳だ。
だが、木檜の主張の要点はそこではなかった。
「市場価格に加えて入手のコストという複数の価値基準がある事、プレイヤー毎にスキルやステータスの違いがある事、更にプレイヤー以外のNPC、就中非人類NPCとの交易が成立する事。これらの条件が満たされた場合、【等価交換】によって『藁しべ長者』的な成り上がりが発生する余地がある。……まぁ、満腹度実装に伴うアレコレのせいで、物々交換の対象がNPC以外にまで拡大された結果、花を相手の『等価交換』なんて事態が出来したのはご愛敬だが」
(「いや……〝ご愛敬〟じゃ済まないんじゃ……?」)
(「事案スレスレのアクシデントだよな?」)
(「ほとんどヒヤリハット案件ですよねぇ」)
スタッフの呟きなどは軽やかにスルーして、木檜は問題の中心に斬り込んでいく。
「そういった目論見を背景に設計された【等価交換】には、交換対象の物品を持つ相手と出会う確率を高めるギミックが仕込んであるらしい。……開発のやつらをとっちめて訊き出したところでは――な」
この爆弾発言に対して、スタッフたちは寸刻沈黙した後で、内心の鬱憤・屈託・憤懣・立腹といったものを、これ以上無いほどの勢いで喚き立てた。開発のクソッタレどもめ、一体何という事をしてくれたのだ(怒)。
「まぁ、交換対象を持つ相手がプレイヤーの場合、誘導の効果は高の知れた範囲に収まるそうだが」
――という木檜の追加説明も、スタッフたちのヒートアップを鎮火するには至らなかった。シュウイは元々プレイヤーキャラクターよりNPCとの関わりが深い。PCとの邂逅率が心持ち下がるなど、何の気休めにもならないではないか。今からでもそのギミックを停止させる事はできないのか?
「【等価交換】がレアスキルならまだしも、あれは満腹度実装を睨んで仕込まれたコモンスキルだからな。今更の変更は無理だろうな」
「「「「「………………(泣)」」」」」
スタッフたちたちの悲憤慷慨・失望落胆・悪口雑言の声は聞くに堪えないものであったが、そんな中にも問題の要点を見失わない者はいた。不動不落のマイペースを以て鳴る一言夕子である。
「えっとぉ~、つまり……『お使いクエスト』と『落とし物クエスト』の間の『藁しべイベント』ってぇ、【等価交換】が招き寄せたって事ですかぁ?」
「そういう事になるな」
「何て事だ……」
「〝チェーン〟どころかクエストですらなかった……」
「〝イベント〟と言うより〝アクシデント〟だったのか……」
商店主のお使いクエストは始まったばかりで最初の依頼すら未達成、藁しべイベントは正規のチェーンクエストではなく、落とし物クエストは隠しクエスト……となれば、チェーンクエストの告知が為されなかったのも当然である。いや、間に非正規の「藁しべイベント」が挟まって……と言うか、「藁しべイベント」に組み込まれた体裁になっている現状では、今後も告知が為されるかどうかすら疑わしい。
「完全に想定外の展開になっているからな」
これが「チェーンクエスト」として認定されるかどうかすら、現時点では不透明なのだという。
「全ては管理AIの判断次第という事ですか……」




