第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 12.種明かし~運営管理室~(その1)
「木檜さん、あれはどこまでがチェーンクエストなんですか?」
要警戒人物――もはや「要注意人物」ではない――の挙動の一部始終をモニターで監視――同じく「観察」ではない――していた管理室スタッフの中から、サブチーフの大楽が皆を代表する形で口を開いた。SROにチェーンクエストが仕込まれているのは承知しているが、これは幾ら何でも盛り過ぎではないか?
大楽の疑問を耳に入れ、他の面々の表情も目に収めた管理室長の木檜は、深い溜め息を一つ吐くと、彼らの疑問に答えるべく口を開いた。
「言いたい事は解るが……まず、食料品屋の親爺が持ちかけたのは間違い無くチェーンクエスト……と言うか、その最初のステップだ」
木檜の発言に、居並ぶ一同は黙って頷きを返した。
……意外に思われるかもしれないが、一連の「チェーンクエスト(仮)」の起点となった〝商店主からの依頼〟、これは独立したチェーンクエストの起点であった。即ち、首尾好く依頼品を持ち帰ったら、満足した店主から次の依頼人を紹介され……という具合に、お使いクエストが連続していく筈だったのである。
難度の低い依頼を順次熟していく事で、村の住人との友誼を育み、同時に非戦闘系プレイヤーにも経験値を稼がせる。本来はそういう狙いのチェーンクエストだったのだ。
そして……
「連鎖の掉尾を飾ったイヤリング、あれもまた別のチェーンクエストのスタート部分になる」
この台詞にもほとんどの者が頷いた。まぁ、自信無さげな者も割といたが。
改めて説明しておくと、これは――シュウイも気付いていたように――落とし物クエストの一つである。
SROにおける「落とし物クエスト」には幾つかのパターンがあるが、今回シュウイが遭遇したようなタイプでは、抑持ち主不明の落とし物がトリガーとなっているので、クエストの依頼人が存在しない。なのでチェーンクエストである事も明かされず、一種の隠しクエストという形になる。まぁ、スレたプレイヤーたちは、先験的にそうと疑ってかかるのであるが。
何れにせよ、ここまでは管理室スタッフも想定のうちであったようだ。
問題なのは、この二つのチェーンクエストを繋いでいる、一連の「わらしべクエスト(仮)」なのだが……
「あれ、なぁ……少なくとも、予め仕込まれた『チェーンクエスト』じゃない」
その答を――不本意ながら――予想していた者も、反対に予想していなかった者も、等しく困惑を隠せない。何が一体どうなっている?
「問題なのは……と言うか、元凶となったのは【等価交換】だ」
「「「「「【等価交換】」」」」」
スタッフたちの鸚鵡返しに、木檜は一つ頷きを返すと、改めて彼らに問いかける。【等価交換】の「等価」とは、何を以て「等価」としているのか――と。
当惑して顔を見合わせるスタッフたちに、木檜が説明する事には、
「『等価』というのは市場価格だけじゃなくてな、入手のコストも参照している。さっきの〝バッツの花蜜とワイルドビーの蜂蜜の交換〟がその例だな」




