第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 11.わらしべクエスト?(その5)
シュウイは満を持して、取り出した蜂蜜の壺を、こっちを見ている子熊に差し出した。……の・だ・が、
「――えっ? ……要らないの?」
豈図らんや。子熊が首を左右に振ると、片手だけを差し出すとは。
まるで〝片手に一杯分の蜂蜜しか要らない、それ以上の対価は差し出せない〟と言っているかのように。
「えーと……?」
少しばかり面喰らいはしたものの、子熊の望みが〝片手一杯の蜂蜜〟というなら、それを引き渡すのがフェア・トレードというものだろう。そう考え直したシュウイは、子熊の小さな掌に一杯分の蜂蜜を譲渡する。
子熊は嬉しそうにそれを舐めていたが、やがて蜂蜜を舐め終えると、どこか勿体ぶった様子で反対側の手を差し出してきた。その掌に載っているのは……
「……え? イヤリングの片っ方?」
戸惑ったように呟きつつ、シュウイがそれを受け取ったところで、
《【等価交換】が成立しました。「ワイルドビーの蜂蜜」と交換で「白い貝殻のイヤリング」を得ました》
(……え? 森の子「熊」から、「白い貝殻製の小さいイヤリング」を貰う訳?)
満足げに立ち去る子熊を見送りながら、シュウイの脳裏に子供の頃から耳に馴染んだあのフレーズが浮かんでくる。ここまで条件の揃ったシチュエーションが、偶然であろう筈が無い。悪辣と悪乗りに定評のあるSROの運営が、仕込んだサインに決まっている。
未だクエスト開始を示すメッセージは現れないが、このイヤリング――の片方――が何かのキーアイテムなのは確定したようなものだ。
そう判断したシュウイは一つ溜息を吐くと、
「……帰ろ」
カンチャン村への帰路に就きつつ、シュウイはこの件について考えていた。
この展開があの名曲の歌詞を下敷きにしているというのなら、〝イヤリングを落としたお嬢さん〟が存在するのは間違い無い。それを踏まえて考えるなら、これはVRゲームに能くあるという「落とし物クエスト」なのではないか? 身近なところで例を挙げれば、コボルトの子供が落としたお守りをタクマたちが届けた事があったそうだし、今回のこれもその伝である可能性は高いだろう。
しかし……気になるのは、これが運営のミスリードではないかという事だ。
ここまでの道具立てから、あの歌を想起するのは当然の流れと言える。しかし、それはクエストとして正解なのか?
これが「落とし物クエスト」だとすると当然、落とし主を探すのが目的になるだろう。その場合、イヤリングが〝何処〟に落ちていたのかというのは重要な手懸かりだ。しかし、子熊から手渡されたという今回のケースでは、その場所を特定する事は難しい。
歌詞に従えば〝森の中〟という事になるのだろうが、その同じ歌詞に従えば、落とし主はあの子熊に追いかけられて逃げ出した――という事になる。
……あまりにも無理な展開ではないだろうか?
「そこまで難しく考える事は無いのかなぁ……?」
ともあれ、村へ帰って訊き込みをしてからでないと始まらないだろう。




