第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 10.わらしべクエスト?(その4)
【等価交換】と【落とし物】のお蔭で思わぬ余録を得る事ができたが、このミニクエストの本筋は飽くまで「バッツの蕾」の入手である。目当てのそれが手に入った以上、一刻も早く依頼主に届けるのが義務であろう。
そう考えて帰路に就こうとしたところでシュウイの【触角】がピクリと動き、同時に【虫の知らせ】が何かを伝えてくる。気のせいか、【虫の知らせ】の感度が一際高くなっているような気がするが……
(……どっちも「虫」繋がりで相性が好いとか……まさかね)
幾ら何でもそんな事は……と思うのだが、何しろここの運営の事である。それくらいの悪乗りは平気で仕込む可能性も無視できない。
(……いや、別に駄洒落を言いたい訳じゃなくて……ともかく、反応があるのはこっちだよね)
おかしな方向へ転がりそうな思考を無理矢理に捩じ伏せて行動に移したが、そのせいで反応のあった方向に進むのは既定の方針のように扱われる。反応をスルーして帰還を急ぐという選択肢は、文字どおり綺麗に無視された。
まぁそういった些事は扨措いて、シュウイは無意識の照れ隠しのように反応のあった方向に急ぐ。するとガサリという音がして茂みが小さく揺れ、その蔭から姿を現したのは、
「子熊……?」
――どこから見ても紛う事無き子熊であった。
それが怯えるでもなく警戒するでもなく、邪気の無い目でシュウイを見つめている。
シュウイはこれでもモノコーンベアやギャンビットグリズリーを怯えさせた前科持ち(笑)であるが、幸か不幸か今回は――【触角】の検証を優先した事もあって――【ろくろ首】は発動していない。人外風味は大分薄れていた。なので怯える様子が無い理由は解るのだが、しかしシュウイに関心を示している理由が解らない。……これは何かのクエストなのだろうか?
モンスターの幼獣が関わるクエストと言えば、「ワイルドフラワー」の三人が契約した幼獣の事が思い浮かぶが、見たところ怪我をしている様子も体調不良の様子も無い。となると、使役獣の契約クエストではないのだろうか。
だとすると、これは一体何が……と、そこまで思ったところで、二つの考えが卒然とシュウイの脳裏に舞い降りて来た。
第一は、無駄に悩んでいる暇があったら、さっさと【聴き耳頭巾】と【従魔術】で意思の疎通を図ればいいというもので、第二は……
(プーさん――プータローの事ではなく、ミルンの童話に登場する子熊――の昔から、熊と言えば蜂蜜だよね……?)
一種の記号としてではあるが、「熊」と「蜂蜜」が密接に結び付いている……少なくとも記号として関連付けられているのは事実である――リアルの事情がどうあろうとも。なら、VRゲームが拠って立つところの〝共有されるイメージ〟として、SROにそれが採用されている蓋然性は低くない。
それにその「蜂蜜」ならば、ついさっきワイルドビーからしこたま貰ったばかりではないか? その直後にこういう出会いがあったというのは、これはもう蜂蜜がトリガーとなって起きた事態だとしか思えないではないか。
「これも一種の『ハニー・トラップ』……違うか」
〝論より証拠〟とばかりに、マジックバッグから蜂蜜を取り出すと、子熊の視線はその蜂蜜にロックオンされる。蜂蜜目当てなのは間違い無い。
ここでシュウイはこれまでの経緯を振り返る――「バッツの花蜜」を得たのも、「ワイルドビーの蜂蜜」を得たのも、全ては【等価交換】の采配ではなかったか?
そして――ここまでの話の展開は、彼の「わらしべ長者」のストーリーをなぞるかのようではなかったか?
宛らチェーンクエストを思わせる展開であったが、それを示すメッセージは何ら現れてこなかった。嘗てシュウイがスーファンの宿場で受けたチェーンクエストでは、それを明示するウィンドウが現れたというのに。
しかしSROのチェーンクエストには、気付けばいつの間にか始まっていたというものも少なくないという。なら、ここはチェーンクエストを疑って行動するのがベターだろう。
(だったら……ここで採るべき行動はこれしか無いよね)




