第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 9.わらしべクエスト?(その3)
〝何に〟反応しているのかは後廻しにして、取り敢えず「落とし物」が落ちているのは何処なのか。幸い、少し前に実装したばかりの【触角】が働いてくれるお蔭で、【落とし物】が反応を示す方角ははっきりと判る。後はそっちへ進めばいいのだが……
「こっちの方角って……バッツの茂みがあった場所じゃん」
つい先程まで自分がいた場所なのだ。落とし物なんかがあれば気付いた筈。だが、そんな代物は目に付かなかったが……と訝るシュウイであったが、現場を見た事で納得した。【落とし物】が反応していたのは……
「あー……落蕾ってやつね。確かにこれも〝落とし物〟って言えなくもないか」
開花前の蕾が、様々な理由によって未開花のまま落ちてしまう現象を「落蕾」と言い、植物の生理障害の一つである。
その原因は多岐に亘るため、シュウイも即座に原因を特定して対策を講じるというのは難しいが……どうせSRO内での事だ。そこまでややこしい設定にしているとも思えないから、先程のジュナの【木魔法】と、おまけの【霊水】と【聖水】でどうにかなる事を祈るしか無い。
それに、シュウイの目下の関心はそこには無く、地面に落ちた「落蕾」の方である。【落とし物】が反応したという事は、これも何かに使えるのではないか? 顧みれば『リサイクル上手』の称号も、何か一働きしていたような気もするし。
これが何かの素材となるなら【鑑定】してみれば判る事だ……と、シュウイは躊躇せずに【鑑定】をかける。ついでに、さっき採集しておいた生の蕾も併せて【鑑定】した結果――
【素材/食品アイテム】バッツの蕾 品質B+ レア度4
開花直前のバッツの蕾。香りが強いので、肉をはじめとする様々な食材の臭み消しや香り付けに使われる。開花直前のものは特に香りが強く珍重される。
料理以外にも、ポプリや入浴剤としても利用される。また、蒸溜して得られる精油には強心作用があるが、特に抜きん出た薬効ではないため、生薬として利用される事は稀。
【素材アイテム】バッツの落蕾 品質C+ レア度3
開花しないまま落ちたバッツの未熟な蕾。生の蕾には及ばないが弱い芳香と薬効成分があり、生の蕾より採集が容易なので、代替品として利用される事もある。
「あー……これはこれで使えそうな素材なのか」
確かに生の蕾に較べれば格落ちするが、素人が個人的に使うのなら充分だろう。それに――シュウイには切れる手札が一枚あった。
生の蕾が薬酒の原料として使われるなら、その代替品である落蕾だって、同じように利用できる理屈である。そして――ここが重要なところだが――酒造原料となるものであれば【猩々】の対象となる筈で……要は品質の向上が見込めるのだ。
――ならばスルーする理由は無い。ここは回収の一手である。
ともあれ、これで店主からの依頼は達成できた筈。あとは戻って完了の手続きを済ませるだけ――と、軽く考えていたシュウイであったが……このところSROに常駐した感のある「ドラマの神」が、そんな月並みな展開を許すはずが無かった。
シュウイの知らないところで、新たなクエストが幕を開けようとしていたのである。




