第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 8.わらしべクエスト?(その2)
どうしたものかと暫し思案していたシュウイだが、自分にはこんな時のためのスキルがある事に気が付いた――【聴き耳頭巾】である。
何しろSROの事だ、敵意が無いなら意思の疎通も可能だろうと、シュウイは淡々と【聴き耳頭巾】を発動して蜂に声をかけ……そして、あっさりと会話が成立していた。
幸い――シュウイが密かに危惧していたように――8の字ダンスとボディランゲージで会話する……なんて事にはならなかった。重畳の次第である。
ともあれそういった経緯で、蜂たちとの会話の結果判ったのは案の定、蜂たちがバッツの花蜜を欲しているという事実であった。シュウイの持っている花蜜を譲ってくれれば、代わりに蜂蜜を渡すと言うのだが……
(う~ん……これはどうした方が良いのかなぁ……)
「品質A レア度5」などという恐ろしく貴重な素材には違い無いが、今のシュウイには持て余す素材なのも確かである。何しろ香りが強過ぎて、単独での活用がほぼできないという代物なのだ。
孰れシュウイの【調薬】なり【錬金術】なり、或いは【酒造】や――大穴で――【男の手料理】が上達した暁には使い熟せるかもしれないが、それまでの間は単にマジックバッグの肥やしでしかない。
ナントに頼んで処分してもらうという選択肢はあるが、これまでに流した素材だけで王都の連中にロックオンされているらしいのだ。ここでこんな代物を放出した日には、どんな騒ぎが巻き起こるやら知れたものではない。却下一択である。
そうなると、ここで花蜜を欲しがっている蜂との取引に応じるというのは、中々現実的な打開策であるように思える。何よりSROでは、現地の住人との交流を推奨していたではないか。
「蜂」を〝現地の住人〟扱いしていいのかという声もあろうが、それを言うならズートの木やツリーフェットとの友誼はどうなるという話になる。
それに何よりもかによりも、シュウイはこれまで〝現地の住人(非人類)〟との付き合いで不利益を被った事が無い。なら……
(……うん、どうせ花蜜は二つあるんだし、一つくらい譲っても問題無いよね)
――という、豪快に太っ腹な判断の下、シュウイは快く取引に応じる事にした。『豪気な使役主』称号の面目躍如たるものがある。
さて、花蜜を譲渡する事に吝かではないが、さすがに壺をこの場に投げ出しておくという訳にもいくまい。そう考えたシュウイは、働き蜂たちの案内に従って、彼らの巣のところまでそれを運んで行く事にした。
この後はどうするのかと思っていたら、
《【等価交換】が成立しました。「バッツの花蜜」と交換で「ワイルドビーの蜂蜜」を得ました》
――というメッセージウィンドウがポップして、花蜜を入れた壺が掻き消すように消える。それではとマジックバッグを検めたところ、そこにあったのは、
【食品アイテム】ワイルドビーの蜂蜜 品質C+ レア度3
野生種の蜜蜂が花から集めて精製した蜜。癖が無く、料理・菓子作りから酒造まで、幅広い用途に向く。
「……え? 『ワイルドビーの蜂蜜』っていう表示の壺が三つもあるんだけど? それも結構大きいのが?」
どう考えても貰い過ぎではないかと焦るシュウイに、蜂たちは何の問題も無いと説明する。
何でもバッツの花蜜は香りが強過ぎて、蜂たちにとっても集めるのが一苦労であるらしい。近寄るだけでクラクラする程の強い香りを克服し、なおかつその蜜を集めるというのは、それはそれはそれは大変なのだと力説された。その苦役を肩代わりしてくれるというなら、これくらいの蜂蜜を渡しても充分に引き合うという事のようだ。
今の自分には持て余す「バッツの花蜜」の代わりに、使い勝手の良い「ワイルドビーの蜂蜜」が大量に手に入った訳で、シュウイとしても悪い取引ではなかった。それに纏まった量の蜂蜜が手に入った事で、蜂蜜酒の醸造も視野の内に入った。御神酒造りを課題として抱えるシュウイとしては、寧ろ好都合な展開である。
いっその事、花粉の媒介に精を出して、バッツの花蜜を追加入手できないものか……などと善からぬ思案を巡らせ始めたシュウイであったが、ジュナの説明によるとそれは難しいようだ。どうもほぼ全ての花で花粉の媒介を済ませたため、周回するのは不可能であるらしい。
それでも未練を捨てきれなかったシュウイは、ワイルドビーと別れた後、再びバッツの茂み方面へ足を向けた。ひょっとして作業漏れの株とかあったりしないかと、未練たらたら触角をピクリピクリと蠢かせていたところ、
「あれ……? この感じって……【落とし物】が反応してる?」




