第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 7.わらしべクエスト?(その1)
シュウイが商店主に教えられた場所を訪れてみると、果たしてそこには説明どおりの灌木が、小さな花を満開に着けていた。噎せ返るような香りの中を、蜂たちが忙しなく飛び交っている。
「もう少しで開きそうな蕾を十個って言われたけど……」
あと少しで花を咲かせられるまでに育った蕾を手折るというのは、どうにもそこはかとない罪悪感を抱かせる。
いや、花も蕾も充分な数があるのだし、十個や二十個採集したところで如何ほどの事も無いのかもしれぬが、それでも何だかなぁと躊躇っていたシュウイであったが、ふと思い付いた事があった。
蕾を採集する代償に、花粉の媒介をしてやるのはどうだろうか。
これだけ多くの蜂が飛び廻っているのだし、シュウイの手助けなど焼け石に水……というのも変な喩えだが、要するに〝大海の一滴〟〝九牛の一毛〟の如きものかもしれないが、
「ま、所詮は自分を納得させるための、要は自己満足な訳だし。別に害になるようなもんでもないだろうしね」
――と、従魔のジュナが【花粉媒介】のスキルを持っているのを好い事に、受粉のお節介を焼く事にする。ジュナもすっかり張り切って、【花粉媒介】だけでなく、【木魔法】によるアフターケアまで追加しているようだ。
……こうなると主たるシュウイとしても、ただ漫然と手を拱いて傍観している訳にはいかない。せめてものフォローとして、【霊水】に【聖水】の合わせ技を椀飯振る舞いしておく。何、既にズートの木の治療に使った実績もあるのだ。これくらいやっても罰は当たるまい。ゴーレムだって別に不具合は生じなかったし(笑)。
幸か不幸かバッツの茂みがそれなりに大きく、花はその一面に咲いていたせいで、切り上げどころを見切れなかったシュウイは、結局全ての花に〝お節介を焼く〟羽目になった。ジュナもさすがにバテ気味のようだ。
こういう場合のジュナのケアはどうすればいいのだろうか。今はシュウイの身体に宿っているのだし、シュウイ本人が魔力回復のポーションでも飲めばいいのだろうか、それとも聖水か霊水でも振り掛けてやるべきか。
そんなシュウイの密かな悩みを蹴散らすように、ポーンというお気楽な効果音が鳴り響く。と、同時に目の前にポップアップする半透明のウィンドウ。
《【等価交換】が成立しました。【採蜜】の効果で「バッツの花蜜」を得ました》
「…………はい?」
思いがけないメッセージに(少しばかり)動揺したシュウイがマジックバッグを検めてみると、確かに「バッツの花蜜」というドロップ品が入っている。
シュウイとしては、花粉の媒介は蕾を採集した事に対する代償のつもりであったのだが、そう言い張るには作業の範囲が広かったようだ。
まぁ、ジュナがヘトヘトになるまで奮闘してくれた成果な訳だし、ここはありがたく頂戴しておく事にする。
そこで改めてドロップ品の内容をチェックしてみると、蜜の入った壺と覚しきものが二つある。それを【鑑定EX】で調べてみると、以下のような結果が表示された。
【素材/食品アイテム】バッツの花蜜 品質A レア度5
バッツの花蜜。上質で香り高く内包する魔力も潤沢だが、香りが強過ぎるため、そのまま食用とするにも、単独で酒などの原料とするのにも向かない。
ただし或る程度の強心作用があるため、薬酒の原料として使われる事がある。
「うわぁ……高品質なのは有り難いけど、少し尖った素材なのかぁ……」
酒造原料になるというのは朗報だが、単独で使用するには向かないようだ。いや、献上相手の神様視点では違うのかもしれないが、それを自分で確かめる気にはなれない。やはり香料とか添加物として扱うのが、これの正しい使い方なのだろう。
まぁ、これはこれで充分に有り難い……と考えていたシュウイだが、ふと気が付くと、自分の周りを蜂たちが盛んに飛び廻っている。敵意があるようにも見えないし、どうもシュウイが手にしている「バッツの花蜜」が気になっているようだ。




