第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 6.商店主からの依頼
頃は午、戻って村人たちの昼食事情に探りを入れるには好い時間……とばかりに村へ舞い戻ったシュウイであったが、
「おっと、困ってる村人発見……かな?」
食糧品店のある辺りに差しかかったところで、もはや使い古された感のあるあのシチュエーション――〝あぁ困った困った、どこかに親切な旅人はいないものか〟ムーヴをかましている店主の姿が目に入ったのである。
――これがフラグでなくして何であろうか。
既定の方針が又候変更を余儀無くされそうな按排ではあったが、折角向こうからやって来てくれたイベントを袖にするのはあまりにも惜しい。
斯くいった判断から、シュウイは店主の話を聞く事にしたのだが……
「え? 保存食作りに使うハーブ?」
「あぁ。ハーブっつうか蕾なんだけどな。肉の臭み消しや香り付けに使うんだが、そいつがちっと払底気味でな」
「はぁ……」
矢庭に降って湧いたような保存食需要のせいで、幾つかの素材が流通に支障を来しているのだという。シュウイにとっては寝耳に水の、そして耳寄りな話であった。
(これって……満腹度実装に絡んでの展開だよな?)
予てより幼馴染みたちからは、カンチャンの村には芸能系プレイヤーを対象にしたイベントなりクエストなりが仕込んである筈との予想を聞かされている。この〝困った事情〟がその口なら、非戦闘職相手のクエストになる筈。難度はそれほど高くないのではないか。
少し気になるのは保存食云々の部分だが、
(実際にそういう動きがあるのか……でなきゃ運営側からのサインなんだろうな)
これについてはもう少し、情報を集めてから判断した方が良いだろう。
茜と匠からは〝試験が済むまでSROの話はするな〟と申し渡されているが、要には一言入れておこうか。ついでにエンジュとモックにも。
頭の片隅でそんな算段を巡らせているシュウイであるが、それより先に決めるべきは、この依頼を受けるかどうかであろう。
尤もこれに関しては、シュウイの心は疾っくに決まっていた。何しろ――
《クエスト「カンチャン村の商店主からの依頼」が発生しました。クエストを受けますか? Y/N》
――なんてウィンドウが目の前にポップアップしているのだ。これがSROの公式クエスト、恐らくはプレイヤーが親しみを込めて「お使いクエスト」と呼ぶものである事は確実となった。
店主が提示した報酬は、店の商品を安く融通するというものであったが、村人の好感度を稼ぐためにも、ここは引き受ける一手であろう。
そう肚を決めたシュウイは、素早く「Y」をタップすると、店主から詳しい話を訊き出しにかかる。それによると……
「あぁ。欲しいのはバッツって蕾なんだ。干し肉や燻製肉を作る時、臭み消しや香り付けに使うもんなんだが、元々香りがきついんでな。一回に使う量はほんのちょっぴりでいいんだが……生憎と切らしちまってなぁ」
件の蕾を着けるのは、日当たりの好い場所に生えるバッツという灌木だそうで、その場所は奇しくも……
(僕が午前中に行ってた荒れ地の近くじゃん。先に話を聞いてたら二度手間にならなかったのに……)
まぁ、今この時間帯に発生したというのにも、何かの理由があるのだろう。そう思い直すシュウイなのであった。




