第百六十四章 カンチャン村滞在記(一日目) 3.カンチャン村徘徊案
逢魔が時と言うか黄昏時――ちなみに、「黄昏時」の語源は「誰そ彼」時、つまり〝相手が何者なのか判らなくなる薄暮の時〟という意味らしい――まで清掃作業がずれ込むのを嫌ったシュウイの奮闘によって、作業そのものは三時頃に完了した。スキルと称号の後押しがあったと仮定して尚、目覚ましいというのに相応しいハイペースである。シュウイの頑張り――或いは恐怖感――のほどが知れようというものだ。
ただしその結果シュウイは、午後三時という微妙な時間……即ち、宿へ戻るには早くフィールドへ出るには少し遅いという中途半端な時間に、所在も無くカンチャンの村をぶらつく羽目になっていた。
「う~ん……フィールドへ出られるんなら、【人形遣い】とか【5トンの術】――表記変わらず――とか、試しておきたい事は幾らでもあるんだけど……」
その二大案件を別にしても、この機会に検証しておきたい未使用スキルは幾らでもある。しかしそれらは【脱皮】だの【触角】だの【踊り念仏】だのと、人目の無い場所で使わないと物議を醸しそうなものが目白押しであった。
尤もその一方で、【隠密】だの【消臭】だの【あっち向いてホイ】だのと、相手がいないと効果を確認できそうにないものも多いのだが。
シュウイは図書館自習室での談論を思い起こしてみる。あの時優先すべき案件として挙げられたのは、①墓参り、②御神酒造り、③【人形遣い】の試用、④【5トンの術】の試用、の四つであった。
このうち墓参りは既に済ませ、【人形遣い】と【5トンの術】は、さっきも述べたようにフィールド推奨の案件である。となると、残る優先案件は御神酒造りだけとなり、何ら迷う必要は無い……かのように思える。
しかし、「御神酒造り」と一言で云っても、実作に至るまでには幾つかの段階がある。
まずは酒造の原料探しから……と言いたいところだが待て暫し。その前にコストパフォーマンスというものを考えねばならない。
御神酒造りの目的は、何をおいても技芸神へ奉納する御神酒の調達である。酒造スキルのレベルアップは、飽くまで副次的なものでしかない。言い換えると、スキルは目出度くレベルアップしたが、神様のお気には召しませんでした……では困るのだ。
つまり、自力で造れそうな御神酒より市販品の方が品質が高いなら、敢えて自力調達に拘る必要は無い……という結論になる。
「そうするとまずは酒屋に行って、売ってる酒の品質を確認するのが先決かなぁ」
ペンチャン村の酒の品質は見ておいたが、ここカンチャン村でも確認しておいた方が無難だろう。値段と手間が釣り合うかどうかも重要だ。あとはどんな酒が売られているのかも、できたら確認しておきたい。
ただ――そうするには一つだけ懸案の問題があった。
「問題は……酒屋の場所を訊き出したとして、上手く辿り着けるかって事なんだよね」
土地鑑の無いシュウイが口頭での説明だけで、首尾好く目的地に辿り着けるかどうか。現に今朝教会に向かう時も、細~い裏路地を前にして、これが〝二番目の通り〟に該当するかどうかを迷う羽目になったのだ。あの時は念のためにと解放した【マッピング】が功を奏して事無きを得たが、今回もそうなるとは限らない。況してシュウイは【迷子】と【方向音痴】のダブルホルダーなのだからして、油断は厳に禁物とすべきである。
安心しきっていた【死霊術】の思いがけない助けによって、待ち伏せしていた脱獄犯を返り討ちに出来たという事実もある。あの時は結果が吉と出たが、毎回そうだとは限らない。SROの運営の事を考えると、油断など出来よう筈が無いではないか。
「とすると……まずは土地鑑を養うところからかな?」
そうなると、当てにするのも育てるべきもまず【マッピング】である。村のマッピングと酒造原料の市場調査は同時進行できるから、効率的だと言えなくもない。運好く酒屋を見つける事ができれば、そこで色々訊くのもいいだろう。
まぁ、御神酒の試作まで手を着けるのは、今は止めておくのが無難だろう。試験前だというのにゲームで時間を溶かし、親からの視線を厳しくさせる事は無い。それに、宿に帰ったら帰ったで、試してみたい事があるのだし。
「まぁ、素直に村内の確認だよね。ここはペンチャン村とは違って、それなりに店とかも多いみたいだし」
フィールドに出て野草や果実を採集できるかどうかという事もあるので、シルとマハラの食糧も探しておきたい。
「あ……【マッピング】の結果って、何かに出力できるのかな?」
だとしたら、シュウイと同じく村に滞在している後輩二人にも、結果を送ってやるべきだろう。情報の共有はチームワークの基本である。
「割とやるべき事は多そうだな」




