第百六十四章 カンチャン村滞在記(一日目) 2.教会訪問
宿泊所の職員に訊ねてみれば、教会の場所はあっという間に知れた。土地鑑無しにそこに辿り着くのは少し手間だった――【マッピング】を使う羽目になった――が、いざ辿り着いて教会に訊ねてみれば、目当てのお墓もあっという間に知れた。
シュウイが密かに恐れていたように、当該の人物はあの街道で幼くして非業の死を遂げた……とかいうのでは全くなく、カンチャン村で大往生を遂げた老人であったそうだ。ただ、子供の頃から駆け出しの行商人として街道を往き来していた経歴からか、死後も時々子供の姿で街道を往来しているのが目撃されるという、或る意味で村の有名人(故人)であったのだ。まぁ尤も、大抵は姿を目撃するばかりで、シュウイのように会話を交わして危険を教えてもらったケースは稀らしいが。
ともあれ事情を聞いて少し気が楽になったシュウイは、恩人(?)の墓に詣でると、【掃除W Lv3】の腕を存分に振るって墓の掃除に励んだのだがその結果……
「……うん、他のお墓との落差が半端じゃないな」
『綺麗好きの信徒』という称号も一働きしたのか、周りからの浮きっぷりが尋常ではない。不調和感溢れる事甚だしい。
何となく、これは拙いのではなかろうかという思いにシュウイが囚われ始めた頃、
「あらあら、随分綺麗になったのね……ここだけは」
狙い澄ましたようなタイミングでシュウイの様子を見に来たシスターが、天然なのか皮肉なのか判らない口調でそう口にしたのを聞いて、シュウイの心に漠とした警戒心が湧き起こる。この流れはトンの町の教会で、模様替えクエストを持ちかけられた時と似てはいないか? あの時は古くなって汚れたり壊れたりした椅子の補修が主だったが、トンの町の教会では、他のクエストを受注した事もある。……そう、【死霊術】取得の切っ掛けとなった墓掘りクエストである。
そして、ここが肝心なのだが……今自分がいるのもまた墓地である。という事は、ここでシスターに持ちかけられる依頼というのも、墓地に相応しい……言い換えると死霊術師に相応しい依頼という事になるのではないか?
不安と危険を覚えたシュウイが離脱の算段を巡らせ始めた、その機先を制するかのように、
「綺麗好きの信徒さんと見込んでお願いしたいのだけど、他のところの掃除もお願いできないかしら?」
間一髪の争いを制したのはシスターの方で、シュウイの目の前には、
《クエスト「墓地の清掃」が発生しました。クエストを受けますか? Y/N》
――というメッセージウィンドウが出現していた。
〝遍くオカルトお断り〟を標榜するシュウイとしては、即座に「N」をタップしたいところなのだが、
(そうすると、教会からの好感度が低下する可能性が大だよなぁ……)
シュウイの持つ『綺麗好きの信徒』『伝道者の祝福』という称号がこの展開を招いたのだとすると、ここでその選択肢を退ける事は、教会からの好感度低下、延いては称号の効能低下をもたらす虞が拭えない。既に『霊魂の友』という称号によって、幽霊との邂逅頻度が高まっているであろうシュウイとしては、教会との友誼は絶やしたくない。
それに――幸いにして日はまだ高いままだ。カンチャン村の墓地の規模がトンの町のそれより小さいだろう事を考えれば、
(……日が落ちて逢魔が時になる前に、掃除を終わらせる事もできそうだよね)
それに、墓掘りクエストの時の経験に鑑みれば、日が落ちて暗くなった時には、作業を継続するかどうかの意志を問うメッセージウィンドウが現れた筈だ。なら、予め作業が数日に亘る可能性を述べておき、それで問題無いかどうかを確認しておけば大事あるまい。
――という判断の下、シュウイはこのクエストを受ける事にした。




