第百六十四章 カンチャン村滞在記(一日目) 4.再び宿泊所自室(その1)
日暮れ前に宿泊所の自室に舞い戻ったシュウイが手に取って眺めているのは、元はハンカチか何かだったらしきボロ布である。一応洗濯はしてあるようだが、その洗濯の過程で力を入れ過ぎたのか、布の真ん中に途中までの裂け目が入っている。
こんな――箸にも棒にもかからなそうな――布切れを、一体どこで手に入れたのかと言うと、実は今日訪ねた教会であった。
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墓地の清掃をどうにか終えて、依頼人たるシスターにその旨を報告してクエスト完了のメッセージを受け取った際に、シュウイは何やら心惹かれる感じを受けた。この感覚には憶えがある。【虫の知らせ】からの通達だ。
然り気無く巡らせたシュウイの視線が止まったのは、部屋の片隅に無造作に置かれた籠であった。見れば中には何枚かのボロ布が入っているようだ。それとなくシスターに訊ねてみれば、信徒から寄贈された古着の中に交じっていたのだという。
「信者の方々のご厚意は有り難いのだけど、偶にこういうのが混じってるのよねぇ……」
無下に棄てる――正確にはそれを目撃される――のも外聞が悪いし、然りとて使い処も見出せないしで、教会でも持て余しているらしい。
何でこんなものに気を惹かれるのかと寸刻悩んだシュウイであったが、直ぐにその理由に思い当たった。ペンチャン村でふと得た称号、『リサイクル上手』のせいに相違無い。あれは確か〝リサイクルの機会が微上昇する〟という効果を伴っていた筈だ。
そして、『リサイクル上手』の称号が反応したという事は……
(……リサイクルが可能だって事だよね? 少なくとも僕には)
考えてみれば、シュウイは【裁縫】に【繕いもの】という未解放スキルを持っている。その練習台として、このボロ布は打って付けではないか。況してリサイクルが可能であると、称号が太鼓判を押しているのだ。ここで手に入れないという選択肢はシュウイには無い。
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――という経緯で入手した破れ布を手に取ったシュウイは、先に【裁縫】と【繕いもの】二つのスキルを解放してから、徐に裂け目の繕いに取りかかった。二つを共に解放したのは、シチュエーションに反応してどちらのスキルが立ち上がるかが判らなかったからである。
素より手先は器用な方なので、最初のうちこそやや不細工な縫い目となったが、やがてスイスイと運針が進む。その感じから、恐らくは無事スキルが起動したのだろうと判断し、縫い終わった後にステータス画面をチェックしたのだが……
「……何かどっちもLv1になってるんだけど?」
ステータス画面に燦然と輝いているのは、【裁縫 Lv1】(Up!) 【繕いもの Lv1】(Up!)の文字。一回の行動で二つのスキルが、どちらも一つレベルアップしたらしい。こういう場合、経験値は二つに振り分けられるのではなかったかと訝ったが、
「……多分バグ……というか想定してなかったんだろうな。守備範囲の重なるスキルを、両方とも保持するケースを」
なので経験値の振り分けは起こらず、一石二鳥を地で行く結果となったらしい。棚から牡丹餅の丸儲けである。
運営が気付いてパッチを当てる前に、さっさと繕いを進めておくべきなのだろうが……シュウイには一つ試しておきたい事があった。
「【繕いもの】って確か、衣服の破れや解れ以外も対象になる……って、要ちゃん言ってたよね」
シュウイの視線の赴く先には、壁板の破損した箇所があった。
こういった破損箇所を補修する事で【日用大工】のレベルが上がる事は、既にナンの町で確認済みである。だが、こうして【繕いもの】が手に入った現在、上手くすればここでも一石二鳥を狙えるのではないか? 破損部の埋め木に使う木片は、これも教会で不要材の欠片を貰ってきてある。
少なくとも【日用大工】の熟練度上昇は間違い無いだろうし、試したところで損はあるまい。




