第百五章 トンの町 1.冒険者ギルド~一夜ダンジョン~
チュートリアルダンジョンをクリアーして外に出ると、以外に時間が経っていないらしい事に気付く。恐らくはチュートリアルだからだろうか、内部と外部の時間の進み方が違うようだ。普通のダンジョンではこういう事は無い――少なくとも、他のゲームではそういう事は無い――と教えてくれたのはテムジンである。
ただまぁ、色々あって疲れたので、温和しくトンの町に帰ろうという事になった。
妙な成り行きでチュートリアルダンジョンのクリアーと、ついでにダンジョンシステムの解放まで済ませてしまったが、それらはシュウイたち本来の目的ではない。そして、本来の目的である微量元素の確保と新人たちの訓練は、既にその目的を達しているのだ。
と言う訳でシュウイたち一行は、多大な成果を携えて、トンの町まで戻って来たのであった。もはや気分的には凱旋であるが、自分たちがダンジョン解放に関わっている事を知られると、絶対面倒になると全員の意見が一致したので、その件については口を拭って知らぬ顔を通すと申し合わせている。
「プレイヤーはともかくとして、ギルド職員がどう反応するかというのは興味があるな」
「あぁ、SRO内でダンジョンがどう認知されているかどうか――ですか」
今回提出予定の素材の中には、ダンジョン産である事を窺わせるものも幾つかある。それらも何食わぬ顔で提出する予定であるが、その時ギルド職員はどう反応するのか。
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「……これは……あぁ、一夜ダンジョンに出会したんですか。運が好い」
「「一夜ダンジョン?」」
さて、反応や如何にと見守るシュウイとテムジンに対してギルド職員が見せた反応は、少しばかり二人の予想を外れたもので、しかもなおかつ興味をそそるものであった。
詳しい情報を要求するテムジンに対して、ギルド職員が開陳した情報は、
「そういうのがあるのは知られているんですよ。判っている事は少ないですけどね」
「「ははぁ……」」
SRO世界のあちこちで確認されており、攻略しようと突入した者も少なくないが、
「攻略の成否に拘わらず、ダンジョンから出たら融けるように消えてしまうんで、判っている事は少ないんですよ」
「あぁ……それで『一夜ダンジョン』……」
「えぇ。まぁ、『一夜ダンジョン』そのものは消えても、収穫してきた素材とかはそのまま残るんですけどね」
「継続的な採集は無理――と」
「そんなとこです。なので、実際には面倒に巻き込まれるのを嫌がって、報告してない冒険者も多いと思いますよ。なので、出現の頻度とか傾向とかについては、正確な情報は判っていませんね」
どうやら、この世界では一種の「迷い家」のような扱いらしい。
(「……これって、そういう背景が設定されているって事なんでしょうか?」)
(「いや……チュートリアルダンジョンはこれまでにも出現していて、プレイヤーの代わりに住人が攻略していたのかもしれん」)
(「つまり……僕らが攻略したのが第一号という訳ではない――と?」)
(「時期的に見ても、今解放される必然性が無い訳だしな」)
ヒソヒソと内緒話を終えたシュウイとテムジンに、ギルド職員は更に幾つかの情報を提供する。
「ははぁ……『一夜ダンジョン』がどこに出るかは判らないが、近い場所に立て続けに出る事は無い――と?」
「えぇ。二匹目の泥鰌を狙って辺りを探した者は多いんですけどね、全員が空振りだったそうです」
これは重要な情報だ。
先程のアナウンスではダンジョンの位置まで明かされてはいなかったが、自分たちが今居る場所にダンジョンが見つからないとなると、ダンジョンを求めて他の場所へ移動しようとするプレイヤーは多い筈。その皺寄せがここトンの町に及ぶ可能性は低くない。
しかし――ギルドで得たこの情報を速やかに拡散すれば、
「僕らが面倒に巻き込まれる可能性は低くなる――と」
「そういう事だ。掲示板には自分の方で情報を流しておくとしよう。……自分ではなく、知り合いに書き込みを頼んでね」
「成る程……よろしくお願いします」
斯くしてチュートリアルダンジョンの情報は、保身のためという理由で、速やかに開示される事が決まったのであった。




