第百五章 トンの町 2.冒険者ギルド~ズートの苗余話~(その1)
冒険者ギルドで報告と素材の売却を済ませ、売却益を山分けにしたところで解散となった。テムジンたち一行は工房に戻って鍛冶仕事に取りかかると言い、エンジュ・モック・瑞葉の三人はギルド内の休憩コーナーで一息入れてから戻ると言う。
そしてシュウイは、何はともあれズートの世話だと、中庭へと足を進めたのであった。
「うん、好い感じに育ってるね。……成長スピードもそうだけど、虫とか付かないのがゲームだよねぇ。リアルだったら害虫に食い荒らされる事が多いからなぁ……」
もはや日課となった【霊水】での水やりを終えたが、心なしかズートの苗も嬉しそうに見える。これが単なる気のせいなのか、それとも何かのフラグなのだろうかと考えながらも、シュウイはこの後どうするかについて思いを巡らす。
「う~ん……ナントさんの店に行ってもいいけど……やっぱり新人たちが先だよね。僕が売ると値崩れしちゃうかもしれないし」
――冗談でも何でもなく、そうなりそうなくらいにはモンスターのドロップ品を溜め込んでいる。何気に【解体】と【落とし物】、それに【掘り出し物】と……不本意ながら【福笑い】が仕事をしているような気がしないでもない。『神に見込まれし者』称号の効果もあるだろうか。
「……まぁいいか。色々あって疲れたし、市場で買い物してから帰ろ……あ、そうそう。その前に、この話を教えてくれたニックにお土産を渡さなくちゃだった」
・・・・・・・・
情報を教えてくれた子供に土産を渡すのだと言って、冒険者ギルドを出て行くシュウイ。それを見送った後も、モック・エンジュ・瑞葉の三人は暫くグッタリとテーブルから離れなかった。たかが一泊二日のキャンプ実習の筈であったが、予想と覚悟を遙かに上回るイベントが押し寄せ、あわや押し流されそうになったのだから、この疲れっぷりも故無き事ではない。
ドロップ品は今日中にナントの店に持ち込むように――と、シュウイはアドバイスをくれたのだが、もう少しぐらいここで休んでいっても罰は当たらないだろう。
「……にしても……シュウイさん、どこに行ってたんだろう。ギルドの裏側から出て来たけど……」
疲れた声で疑問を呈したのは瑞葉であった。特に答を期しての問いではなく、何の気無しに口を衝いて出て来ただけのようであったが、
「あぁ、中庭でしょう。職員の方たちが世話している花壇があるって聞きましたから」
――というモックの返答を聞いて、がばとその身を起こす事になった。
「中庭!? 花壇!?」
どちらの単語も、、「園芸家」にして「種苗農家」である瑞葉にとっては、聞き逃す事のできないものであった。
「あれ? ご存知なかったですか? それなりに知られた話なんですけど」
ちなみに〝知られている〟理由は、中庭や花壇を荒らしたら女子職員の鉄剣――鉄拳ではない――制裁が下るから注意しろ――という、先輩冒険者からの忠告が行き渡っているためである。
「知らなかった……」
だが、当の瑞葉は滅多にギルドに顔を出さなかったせいで、この周知の事実を聞きそびれていたらしい。そうと知っていれば、何を措いても中庭に突撃していたのに……と、切歯扼腕する瑞葉であったが、或る意味で自業自得である。
「ま、まぁ、今知る事ができた訳ですし……行ってみますか?」
「勿論!」




