第百五章 トンの町 3.冒険者ギルド~ズートの苗余話~(その2)
という仕儀となって、鼻息の荒い瑞葉に連れられて中庭を訪れたモックとエンジュであったが、
「うわぁ……」
「これは……思ってたより……」
エンジュとモックは感嘆の声を上げて中庭を眺め回しているが、言い出しっぺの瑞葉は声も無く――ただし鼻息だけは荒く――種々の植物を凝視している。どうやら彼女の予想を上回る、そして満足のいく品揃えであったらしい。
こんな立派な庭だと知っていれば、如何なる艱難辛苦を乗り越えてでも冒険者ギルドに日参したのに……今からでも職員の皆さんに話を聴くべきか……と、植えてある植物を逐一調べながら悩んでいた瑞葉であったが、少し離れた位置にポツンと植えられているそれを見つけて、驚きの念に打たれる事になった。
(……な……何でここにズートの苗が……?)
彼女が知り得た情報では、ズートの苗の栽培化に成功した例はほぼ皆無の筈。バイト先の領主の庭番の人と、友人であるカナからの情報である。
……なのに……冒険者ギルドの中庭に、しれっとした感じで植わっているなど……これは何かのフラグだろうか?
「どうしたんです? ……へぇ? ズートの苗?」
「その様子だと、珍しいんですか?」
「う、うん。ここに植えられているなんて思わなかったから。ギルド職員の人が植えたのかな? カナちゃんは何も言ってなかったけど……」
――何気無い瑞葉の呟きに応じたのはエンジュであったが、その内容は瑞葉にとって爆弾であった。
「カナさんですか? ……言っていいのかどうか判らないけど……シュウイ先輩、うちの姉と知り合いみたいですし……多分、カナ先輩とも知り合いなんじゃ……」
その言葉にグルンと振り返って、カッと目を見開いてエンジュを凝視する瑞葉。その形相にヒッと怯えたような声を上げるエンジュ。
「で、でもシュウイ先輩の方は、瑞葉さんがエンジュさんのお姉さんの知り合いだなんて、気付いてないっぽかったですよね?」
宥めるように二人の間に割って入ったモック。
そして――その一言で全て腑に落ちた気がする瑞葉。あの腹黒い友人が、何か画策したに決まっている。
キャンプでの様子を見る限り、ズートの苗だか種だかを持ち込んだのは、十中八九シュウイだろう。どういう経緯でかカナがそれを入手して、しれっとこっちへ流してきたに違い無い。
(カナちゃん……)
貴重なズートの種を回してくれた事には感謝する。そのお蔭で、念願の園芸職にも就けたのだ。それも二つも。
幾ら感謝してもしきれないというのは確かなのだが……しかし、せめて予備知識の一つぐらい教えてくれてもよかったではないか。……その予備知識が何かの役に立ったのかどうかは別として、心構えの一つぐらいはできたかもしれない。
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その後、半ば泣き声での瑞葉の抗議チャットに、陳弁にこれ務めるしか無いカナなのであった。
「……明日、蒐君にあったら説明しておかなきゃいけないわね」




