第八十七章 トンの町 4.新参スキル奮戦録(その1)
安定の主人公がまたしてもやらかします。
朝のうちに冒険者ギルドの中庭で――あまり大っぴらにはできない――一仕事を終えたシュウイは、午後の時間を懸案事項の解決に当てる事にした。すなわち、拾得したまま確認していないスキルの検証である。
「スキルコレクター」というユニークスキルの働きで、得体の知れないレアスキルを拾う事が多いシュウイとしては、ある意味で最も重要なルーチンワークと言えた。
「試験前という事でモックとエンジュの指導はお休みだし、うちの学校の試験前週間は月曜からだし……明日まではフルでログインできるって事だよね。……だったら、今日と明日は検証に時間が掛かりそうな……或いは面倒そうなスキルを優先的にやっちゃおうか」
拾得したきりで確認していないスキルは現時点で――
【大食い】【闇魔法の素地(オーク)】【堆肥作り】【ろくろ首】【メビウスの壁】【整理整頓】【化石】【掃除】【伐採】【暴走】【優柔不断】【モグラ叩き】【歌舞の心得】の十三個であり、他にアーツとして【水魔法(ホビン)】がある。
この中で検証に時間がかかるか、もしくは面倒そうなスキルというと……
「う~ん……場所を選びそうだとか、手軽にできなさそうなスキルというと……やっぱり、【堆肥作り】【伐採】【暴走】【モグラ叩き】……ってとこかな。人目を避けた方が良さそうなのが【ろくろ首】と【化石】か……。他に、【闇魔法の素地(オーク)】と【水魔法(ホビン)】も、人族のスキルじゃないから、大っぴらにやんない方が良さそうな気もするし……【メビウスの壁】も、何となく名前が怪しいよね……」
思った以上に曲者っぽいスキルが多くて凹みそうになるが、曲者スキルほど化けるものだという――シュウイが身を以て確認した――経験則に従えば、やはりこれらのスキルから始めた方が良いだろう。
「……一番ヤバそうなのは、やっぱり【ろくろ首】かぁ……」
他のスキルも大概な予感がするが、抜きん出て拙そうなのはやはりこれであろう。
「【通臂】の時にも結構な騒ぎになったからなぁ……」
あの時は河童と間違えられて、暫くの間トンの町外れは、河童を探す冒険者たちでごった返したものだった。下手をすると今回もその再現になるかもしれないと、些か腰が引けるシュウイ。だが、「スキルコレクター」の働きでスキルを捨てる事ができない以上、このスキルを抱え込む事は決定事項であり、それなら少しでも活用の途を探るのが建設的であろう。
「はぁ……先にこいつから片付けるか。……あ、ついでに【闇魔法の素地(オーク)】も起動させとくか。これ単体では何の効果も無さそうだけど、ひょっとして新しいスキルを拾うかもしれないし」
・・・・・・・・
スキルの検証という目的のため、シュウイは南東のフィールドを訪れていた。既に東のフィールドでモンスターを蹂躙しているシュウイとしては、珍しい選択である。
というのも――
(シルがいれば東のフィールドでも問題無いんだけど……今回はスキルの検証が目的だからね。余計な事に気を取られたくないし……かと言って南とか西のフィールドだと、新人さんたちが彷徨いてるからなぁ……)
モンスターによる邪魔が入らず、新人たちに目撃される機会を減らすという二つの要求の妥結点として選ばれたのが、ここ南東のフィールドという事らしい。
目的の場所に到着したシュウイは、周辺に冒険者たちがいないのを確認した上で、隠蔽系のスキルをすべて解除した。本来ならこんな真似はしたくないのだが、何しろ今から試そうとしているスキルは【ろくろ首】である。大型の姿見でも無ければ、自分の首がどれだけどのように伸びているのかなど、確認のしようが無い。かと言って、知人の前で妖怪じみた姿を晒すのも躊躇われる。
――という訳で次善の策として、シュウイは従魔であるシルとマハラに検分させる事を選んだのであった。言葉による会話はできずとも、両名の感情のようなものは伝わってくるので、首が伸びたかどうかくらいは判るだろう。
斯くしてシュウイは【ろくろ首】の試用に踏み切ったのだが……




