第八十七章 トンの町 5.新参スキル奮戦録(その2)
「うわぁ……視界が違う……」
首が伸びているのかどうかは自分には判らないが、目の前にいるシルとマハラからは呆れたような感情が伝わってくるし、何より明らかに視点が高くなっている。してみると、首が伸びているのは間違い無いだろう。
「……結構自由に動くんだな。……関節とか筋肉とか、どうなってんだろうね」
視点の高さから判断すると、ざっと三十センチほど首が伸びているようだ。タクマが……いや、匠が普段目にしている光景とはこのようなものであったのかと、やや複雑な感興に浸るシュウイ。
レベルが上がるにつれて、首の長さも伸びるのかどうか。今後の検証待ちだろうが……
「……これって、何の役に立つんだろうね?」
今まで拾ったレアスキルは、癖はあるにせよ何かの役には立っていた。しかし、この【ろくろ首】というスキルが何の役に立つのかと言うと……
「……高いところを覗くのに使えるかな。それと、視点が高い分だけ遠くまで見えるとか」
現状でそれくらいしか使いどころが思い付かない。……人を脅かすのにも使えそうではあるが。
「……これってやっぱり、偵察とかそっち系のスキルになるのかな……?」
まぁ、どんなスキルに化けようとも、シュウイはこのスキルと付き合っていかざるを得ないのだから、余計な事を考えても仕方がない。そう割り切ったシュウイが【ろくろ首】を解除しようとしたタイミングで、
「……あれ? ……プレイヤーっぽい反応が五つ、こっちへ向かってるな?」
その跡を追いかけてくる反応から察するに、どうやらモンスターの群れに追われているらしい。介入するべきかと考えたところで、シュウイはここが南東のフィールドである事に気付く。
「……この辺りで群れを作るモンスターっていうと、プレーリーウルフかな? でも、この動き方は少し違うような……」
プレーリーウルフなら、もう少し高い連携戦術を使ってくる筈だ。数頭が勢子となって待ち伏せの場所に獲物を追い込むとか。しかし、【気配察知】に現れている反応を見る限りでは、戦術も何も無く単純に追いかけているようにしか見えない。
はてねと考えていたシュウイであったが、やがて思い当たったのは……
「……あ……もしかして……」
【ろくろ首】の効果で視点が高まり視程が伸びているのを幸いに、反応のある方向に目を凝らす。
「……あ~……やっぱりカマドウマかぁ……」
トンの町最悪モンスターの座に君臨するマッドカウマ。見た目は巨大カマドウマであるが、集団で出現し、悪食で何でも囓る性質を持つ。体液は腐蝕性で、斬り付けた鉄剣などは往々にして腐蝕する。このモンスターに襲われて死に戻った場合、装備が囓られて耐久性が低下している事が多いため、見た目のキモさやドロップを落とさない事と相俟って、トンの町の嫌われ者モンスターの筆頭に挙げられている。
一見したところでは敏捷には見えないマッドカウマであるが、実はピョンピョンと跳ねて移動するため、見かけ以上にストライドが大きい。しかもピョンピョコピョンと大きく跳ねるため、物理であれ魔法であれ攻撃が当たりにくいという特徴を持つ。そこまで硬いモンスターではないので、攻撃が当たりさえすれば然して苦労せずに斃せるのだが、余程の熟練者かもしくは範囲攻撃を使わない限り、中~遠距離戦では斃しにくいモンスターでもあった。
その一方で、それほど執念深いモンスターではないため、暫く逃げていれば追って来なくなる。なので、見かけたら直ぐに全速で離脱するというのが、新人にお薦めの対処法となっている。
そしてこの時も……
「あ~……どうやら逃げ切れるみたいだね。救援は要らないか……」
新人たちの事を考えて安堵していたシュウイであったが……もう少し今の自分の姿というものに気を配るべきであったろう。




