第八十七章 トンの町 2.育てよ!タネ~瑞葉の場合~(その1)
トンの町の冒険者ギルドでシュウイが悪巧みを巡らせている頃、同じトンの町の片隅では、同じようにズートの種子がトリガーとなっていながら、まるで異なるクエストをクリアーした者がいた。言わずと知れた瑞葉である。
「や……や……ぃやったぁーーー!!」
下宿の小部屋で踊り廻っている彼女の目の前には、半透明なウィンドウが浮かんでいた――二つ。
《職業解放クエスト「ズートの種子を発芽させよう」がクリアーされました。職業「園芸家」が解放されました》
《職業解放クエスト「鳥撒布種子を発芽させよう」がクリアーされました。職業「種苗農家」が解放されました》
苦節ウン十年……どころか精々二ヵ月ほどであるのだが、ともかく彼女の主観では長い逼塞を強いられた後に、漸く現れた希望である。喜び勇んで「転職の儀」に向かおうとしたところで……瑞葉は恐るべき事実に気付く。
「……転職が可能になるのって……レベル5からだったっけ……」
改めて自分のステータスを見直す。
――種族レベル 4――
「ふ……ふぇぇ……」
このままでは折角解放した職業に就けないではないか。狼狽と落胆の虜となった彼女は、この一件の原因となった親友に対してSOSのメールを送ろうとしたのであったが……その機先を制するように、事態の方が先んじて動き出した。
《職業解放クエストを二つ同時にクリアーしたので、称号「園芸に賭ける者」を取得しました》
《職業解放クエストWクリアーの報酬として、【整理整頓 Lv3】を取得しました》
「ふぇ……!?」
《スキルスロットに空き枠が無いため、【整理整頓】を発動します》
《【木魔法の素地】二つが【木魔法の素地W】に統合されました。スキルスロットが一つ空きます》
《【発芽】二つが【発芽W】に統合されました。スキルスロットが一つ空きます》
《【成長】二つが【成長W】に統合されました。スキルスロットが一つ空きます》
「な……何? 一体何が起きてるの……?」
彼女が混乱するのも無理のないところで、これら一連の事態は管理AIの陰謀或いは悪巧みの結果引き起こされたものであった。
まず称号であるが、一人のプレイヤーが職業解放クエストを同時に複数クリアーするなどという事態は想像もされていなかったが、これが一つの快挙である事は間違い無い。ならば何らかの報酬があって然るべきだろうと考えたAIは、とりあえず「園芸に賭ける者」という称号を創り出して与える事にしたのであった。効果は園芸関連のイベントに関わる確率の微増である。
この事自体はまぁ妥当なものであろう。
問題なのはWクリアーの報酬と銘打って与えられた【整理整頓】で、これにはハッキリとAIの思惑が絡んでいた。
――園芸系の職業を熱心に希望しているだけでなく、「ズートの種子」などという曰く付きの代物を引き寄せるだけのコネを持っているとなると、これは今後も色々と活躍してくれる事が期待できる。しかも、あのカナのフレンドというではないか。これは是非とも表舞台に引き上げるべき――などという、本人の希望とはかけ離れた目論見を抱いたAI――中々人間臭く成長しているようだ――は、瑞葉のスキルスロットが埋まっている事に不満を持った。今後もどしどし活躍して欲しいのに、スキルを得られないようでは活躍できないではないか。……ならばスキル枠を空けてやればいい。
SROでは種族レベルが5を超えると、以後はレベルが1上がるごとにスキル枠と控えスキル枠が増加する仕様になっているが、生憎な事に瑞葉の種族スキルはレベル4。なのに、繰り返すがスキル枠は既に埋まっている。
さて――どうしたものか。




