第八十六章 篠ノ目学園高校 2.昼休み(その2)
「ねぇねぇカナちゃん、問題になってるのって、『種子の発芽』かなぁ?」
「多分そうだろうな。βテストの時にも、フィールドで採取した果実の種は発芽しなかったし」
「種子を買わせようとする運営側の陰謀じゃないか――って説が支配的になったのよね、確か」
要するに――果肉に発芽抑制成分が含まれていて、鳥の消化管内で果肉が除去されないと発芽しない、いわゆる「鳥撒布種子」という可能性に思い至った者がいなかったのだ。
「蒐君が以前に確保したものは、実際に鳥の糞から回収したのよね?」
「……で、ズートの種子は錬金術で果肉成分を除去してある――と」
「確か蒐君だけじゃなくて、住人のお爺さんも手伝ってくれたんだよね?」
「うん。一級薬師のバランド師匠」
「蒐の錬金術が駄目でも……」
「えぇ。スキル持ちの住人が協力してるって事は――」
「上手くいく可能性が高いって事だよね?」
茜が導いた結論に、要も頷いて同意を示す。
「多分ね。だけど問題はそこではなくて」
「果肉を取り除くという方法に気付いているかどうか、それを確認するためのクエスト――って事?」
「可能性はあると思う」
う~むと考え込む一同。大筋においては要の言うとおりだろうが……何かしっくりこないと言うか、見逃している事があるような気がする。
そして――こういう時に核心を突くのは、直観力には秀でている茜の役どころであった。
「……気のせいかな。なんだか運営さんの悪足掻きっぽい気がするんだけど……」
――そう。文字どおりの悪足掻きであった。
この「職業解放クエスト」というものは、運営が〝とりあえず作ってはみたが需要が有るか無いか判らない職業〟を斡旋するに際して、プレイヤーの意向を確認するためにでっち上げたもので、プレイヤーの熱意――と言うか、件のレア職に対する執着の度合い――を確かめるためのものという事は、先に述べとおりである。ただ……園芸・農業系の職業解放クエストに関しては、それに加えて運営側の裏事情があった。
園芸・農業系の職業は、希望者が少なそうな割に、解放された場合SRO世界への影響が大きそうなので、できればプレイヤーには解放したくない――というのが運営側の偽らざる本音であり、そのために態々「職業解放クエスト」による妨害を謀っているのである。SRO世界で得られる果実などの種子は何れも、果肉に発芽を抑制する成分が含まれており、果肉を丁寧に除去しないと発芽しない仕様になっているのだが……この仕掛けは既にシュウイによって見破られている。……そうと知らない運営側がいっそ哀れである。
そして……こういう裏事情までは看破できなかったものの、茜の発言を聞いて、運営側が何か企んでいるのだろうと、違和感の正体に思い当たる三人。
「……まぁ、その件は一旦措くとしてだ、クエストが二つも同時に提示されたのは何でだ?」
皆を代表する形で匠が疑問点を口にするが、当然誰からも答えは返って来ない。
「……瑞葉の奮闘に期待するしか無さそうね……」




