第八十六章 篠ノ目学園高校 3.放課後(その1)
話題の内容はともかくとして、討論自体は比較的穏やかに進んだ昼休みであったが、放課後になってテーマが蒐一の報告に変わった途端、落ち着いた雰囲気は形を潜めた。追及の火の手を上げたのは茜である。
「蒐君! 約束!」
「……え?」
「約束したでしょ! 【着痩せ】!」
「使ってみて使用感を報告してくれる筈だったわよね?」
「あぁ……その事……」
独り蚊帳の外を決め込んでいる匠に恨めしげな一瞥を投げると、諦めて報告を始める蒐一。
「……宿の女将さんで反応を見てみたんだけどさぁ……確かに痩せて見えるみたいだよ」
「どれくらい!?」
「……え?」
【着痩せ】スキルを発動した後で、何食わぬ顔をして階下へ降りて反応を見ただけだ。当然、スキルの事など話してはいないし、従って〝どれくらい痩せて見えるか〟など確認してはいない。
しかし――茜の反応を見るに、どうやらその点こそが最重要ポイントであったらしい。
「え……えぇと……スキルの事を話す訳にはいかなかったから、どれくらい痩せて見えたのかは確かめてないんだけど……」
「もうっっ! 蒐君ってば、使えない!」
「えぇぇぇぇ……?」
いきなり無能不要と談ぜられた蒐一が情けない声を上げるが、チラリと横目で確認すれば、要も感心しないという顔付きで頭を左右に振っている。これは……何とか失態を挽回しないと、後々まで何を言われるか判らない。
「あ……でも……衣服の着用感とかは別に変わりがなかったから、劇的に痩せたって訳じゃないと思う……けど……宿の姿見で見た時には、何となく痩せて見えたかな?」
「どっちなの!?」
いつもと違って鬼気迫る茜の様子に、引きっ放しの蒐一である。
「え……えぇと……」
自分で姿見を見た時の記憶を必死に辿る。あの時は……
「……シルとマハラも妙な顔をしてたし、女将さんからは急に痩せたって心配されたけど……自分で見た時の感じだと、そこまで激痩せしたようには思えなかったんだよね。けど、自分でも少し痩せたとは思ったかな。……ひょっとしてだけど、自分と他人の感じ方に差が出るスキルなのかもしれないし……」
「む~……」
不確定要素を前面に押し出す事で、どうにか茜の追及を躱す事に成功した。
「……だけどさ、茜ちゃん。コレってそんなに大事な事かな? SROではアバターの体型も、ある程度好みに変更できたよね? 一旦作ったアバターの体型は、リアルと違って変化しないんだし……そこまで大騒ぎする事じゃ……」
「蒐君ってば、女心が解ってない!」
「えぇぇぇぇ……?」
一方的に断罪される蒐一を哀れと思ったのか、やや冷静な要が解説を買って出る。
「キャラクタークリエイト後のアバターの外見は、課金さえすれば変更できるのよ。言い換えれば、変更するには課金が必要って事。けど、蒐君の【着痩せ】スキルは――痩せるという一点についてだけど――無料かつ容易に変更できる訳なの」
「女の子なら欲しがって当然だよ!」
「私たちとしても、無関心ではいられないのよ」
「はぁ……」
説明を受けて、何となく問題の背景が理解できた気がする。
「……あれ? でも、そうすると……このスキルの情報って……」
「蒐君には悪いけど、掲示板に上げる事は決定済みよ」
「異論は認めない!」
「大丈夫。個人情報の保護には最大限に配慮するから」
「……宜しくご配慮を願いします……」
反論する気力も萎えたと見て取った要は、
「それでね蒐君、問題の【着痩せ】スキルだけど、他にどういう効果があるの?」




