第八十三章 トンの町 14.「ナントの道具屋」(その6)
面倒なPvPに巻き込まれた――ついでに予想外の臨時収入にありついた――上に、その後始末で冒険者ギルドに連行されたりしたせいで、半端に時間が潰れてしまった。シュウイのやる気が削がれたというのもあるが、この後もあちこちに顔を出して相談する必要もある。これ以上新人二人を拘束しておく理由は無いだろう。
「――と言う事で、今日は自由行動という事にします」
ひょっとして少し引かれるような姿を見せたかという懸念もある――実際には懸念どころではないのだが――ので、少し冷却期間をおこうという目論見も、シュウイとしてはあった訳だが。
エンジュとモックの二人は、好い機会だからという事で、調理道具と調味料の買い出しを済ませるつもりらしい。近々野営の真似事ぐらいはやっておきたいので、丁度好いと言えば好いタイミングではあった。
「……あぁ、そう言えば……」
モックに確認しておく事があったのを思い出した。
始末書を書くために訪れた冒険者ギルドで、モックを連れて技芸神の聖地を訪れ、歌を奉納させるという派生クエスト「技芸神への奉納」が発生したのであった。クエストが提示された瞬間に、後先考えずに受理したのだが……肝心のモックに一言確認すべきであったか?
ナントとエンジュからは今更という目で見られたのだが、当のモックは……
「あぁ、そういう事だったんですか」
――と納得していた。
聞けばモックの眼前には、
《派生クエスト「技芸神への奉納」が発生しました。技芸神の聖地を訪れて歌を奉納して下さい。なお、このクエストに期限はありません》
――とだけ表示されたとの事。イエスかノーかの打診は指導役たるシュウイにのみあって、モックの方に選択権は無かったらしい。
「あくまで指導クエストの一環だと言う事なんでしょうけど……クエストが発生したのは僕だけなんでしょうか? エンジュさんにもあって然るべきなんじゃ?」
モックは些か疑念を覚えたようだが、
「多分、どこかのタイミングで解放されるんじゃないかな?」
――というナントの予想を聞いて納得していた。抑二人の希望する職業が異なるのだから、同じタイミングでクエストが解放される方が不自然である。それもそうかと納得する新人二人であった。
「あ、そうだ。ついでにモックに訊いておきたい事があったんだ」
「何ですか?」
シュウイが訊きたかったのは、先日拾ったスキルの事である。【歌舞の心得】というスキルを拾ったのだが、これは一体どういうスキルなのか。吟遊詩人志望のモックなら、何か知っているのではないか? 歌か踊りに関するスキルだというのは予想が付くのだが……
「え!? そんなレアスキル拾ったんですか!?」
――思った以上にモックが食い付いた。
このスキルは単体で何かができるという訳ではないが、持っていると歌と踊りが上達し易くなるのだそうだ。芸能関係の職を狙っているプレイヤーには必須とも言えるスキルでありながら、未だに誰も取得した事が無く、関係各位の垂涎の的となっているらしい。
「公式発表で存在だけは確認されていたんですけど……何で、選りに選って先輩が……」
羨ましそうな……と言うか、恨めしそうな目で見られたが、「スキルコレクター」というユニークスキルの事を秘匿しているシュウイとしては、アルカイックスマイルで誤魔化すしか無い。
ただ、このスキルは飽くまで補助系のスキルであるため、何か歌舞音曲系のスキルを使用しないと成長しないらしいが……
(……僕が持ってるのって、【デュエット】くらいだよね。……いや? 【般若心経】とか【腹話術】でもいけるのかな? 歌というには微妙に違うような気もするけど……)
そこは試してみるしか無いだろうと肚を括るシュウイ。
何れにしても声を出してナンボのスキルである以上、稽古する場所を選ぶ必要がありそうだが……
(……ダンス系のスキルとか持ってないしなぁ……幾ら何でも【平衡感覚】とかは駄目だよねぇ……いや……?)
……ひょっとして、武術の型稽古や演武でもいけるのか? スキルとしては持っていないが、歌枕流にも一応型のようなものはあるし、お復習いを兼ねて試してみるのも良いかもしれない。
シュウイは密かにそんな事を考えていた。




