第八十三章 トンの町 15.「ナントの道具屋」~「バランド薬剤店」
新人二人を買い物に送り出したところで、シュウイは改めてナントに向き直った。さっき頭に浮かんだ事を確認しておかなくてはならない。
「ナントさん、付喪神についてなんですけど……住人の持ち物も化けたりするんでしょうか?」
「――え?」
ナントも虚を衝かれた様子で黙り込んだが、
「……シュウイ君が気にしているのは、こっちの住人が付喪神化した武器とかを持っている可能性かい?」
「それもありますけど……住人の持ち物だった中古の道具とかにも、化けるのに必要な経験値が貯まっているのかどうかが気になって」
「あぁ……そっちなのか……」
〝ナンの町の先に進むには対人戦のスキルが必要な可能性がある〟――という未確認情報をシュウイから貰っているナントとしては、対人戦の相手がチート武器を携えている可能性を懸念したようだが――シュウイの指摘も確かに重要である。……いや、商人という立場のナントにしてみれば、寧ろこちらの可能性こそが重要だと言える。
「……どうだろうね。抑、こっちの住人からそういった話を聞いた事が無いからねぇ……」
ゲーム的観点から見ると、もしもそういう話があるのなら、それなりの手がかりが遺してある筈という気がする。
「……ただねぇ……前にも話したと思うけど……住人が使っていた道具をプレイヤーが入手したという話自体を聞かないからねぇ……」
未だに検証されていないのだとナントは言うのだが……
「……あの……ナントさん、僕……バランド師匠からお下がりの調薬道具を貰ってるんですけど……」
「……え……?」
そう。シュウイがこの話を持ち出したのは、偏にそれがあったからである。
気になって【鑑定EX】で鑑定してみたのだが、付喪神云々の記述は無かった。
しかし――だからと言って経験値が貯まっていないとは言えないのである。使っているうちに付喪神化するかもしれないではないか。
「作業に補正が入ったりすると嬉しいんですけど」
「どうだろうねぇ……それこそバランドさんに訊ねてみたら?」
「……そうします」
・・・・・・・・
「……いや……そういう話は聞いた事が無いのぉ……」
弟子から疑問をぶつけられた師匠は、首を捻りもつつそう答えた。
「抑調薬の道具なんぞ、使い潰してナンボじゃからな。薬研にしろ乳鉢乳棒にしろ、使っているうちに磨り減ってくるもんじゃし、器など割れたり欠けたりする事も多いでのぅ」
付喪神に変化するほど長保ちはしないのではないか――と言うのがバランドの意見であった。シュウイに下げ渡した道具にしても、何度か買い直したりしたものらしい。
「それ以前にじゃ、調薬というのは適正な原料を適正な量だけ、適正に処理して初めてできるもんじゃ。付喪神だか何だか知らんが、道具に勝手な真似をされては、薬師としては迷惑じゃ」
真っ当な薬師なら、得体の知れないものに頼るような真似はしない。寧ろ邪魔になるだけである。シュウイも努々そんな横着な事を考えるでないぞ――というお叱りも受けたのだが。ただ……
「……薬師の事は措いておくとして……摩訶不思議な力を持つ家宝を伝えているという話は、ちらほら聞いた事があるのぅ」
「あるんですか!?」
――聞き捨てにできない情報であったが、
「ただしじゃ、摩訶不思議な力を持つがゆえに家宝としたのか、代々受け継がれていくうちに不可思議な力を得たのか……どちらなのかは判らんのじゃがな」
「あぁ……それもそうですね……」
重要な情報には違いないが、当面の疑問を解決する役には立たない。
「……そう言えば……お主もその手のものを持っておらなんだか?」
「――はぃ?」
目をパチクリとさせるシュウイにバランドが思い出させたのは、以前にシュウイが盗賊の隠れ家跡地で拾った、「マーリンの薬匣」の事であった。
「……そう言えば……ありましたね……そんなのも……」
久しぶりにアイテムバッグから取り出して、【鑑定EX】で調べてみたのだが、相変わらず表示される情報は無かった。まだ薬匣のレベルの方が高くて、情報を取得する事ができないらしい。
バランドには何やら見えているようであったが、〝自分で調べた方が愉しいじゃろう?〟――と言うばかりで、何も教えてはもらえなかったのである。
運営は開示していないが、「マーリンの薬匣」を使うにためは、〝種族レベル12以上で、かつ【調薬】か【錬金術】が中級の半ば以上に達している事〟という条件がある。
シュウイがこれを使えるのは、まだまだ先の事のように思えた。




