第八十三章 トンの町 12.「ナントの道具屋」(その4)
SRO、「スキル」を持っていなくても、所謂パーソナルスキルでも似たような事が――ゲーム内で――できるというのが、セールスポイントの一つである。なので料理に関しても、同じような事を目論む者は多いのだが……
「あー……」
「悪い事は言わないから、料理に関しては止めといた方が良いよ?」
「「はい?」」
訝しげな新人二人に対して、その辺りの事情を説明する先輩二人。問題の事情というのは簡単である。
「……中世ヨーロッパレベルの調理器具と調味料で、食べられるものを作れる自信がある? だったら止めないけど?」
「「……無理です……」」
現代日本の料理レシピというのは、贅沢な材料に贅沢な調味料、それに便利な道具を使い倒す前提で作られている。それらの一切を封じられた状況での料理となると――もはや一般の料理とは一線を画さざるを得ない。
「どっちかと言うと、キャンプ料理とかの範疇に入ると思うよ」
――したり顔でそう忠告するシュウイであったが、実はタクマの受け売りである。
「必然的に調理器具も、リアルで見ているようなものじゃなくて、キャンプ道具っぽいものになるからね」
こっちはナントの言である。
「フライパンとフライ返しがあれば何とかなるかと思ってたんですけど……」
「あと、中華鍋とか……」
「うん。どっちも存在しないからね」
電子レンジとかIHヒーターとか低温調理器とか言い出さなかったのを、褒めるべきかもしれない。
「いえ……さすがにそこまでは……」
「けど……電子レンジとかオーブントースターとかはまだしも、圧力鍋まで無いのは……地味にきついです……」
「だろうねぇ……」
序でに言っておくと、ダッチオーブンが無い事も確認済みである。
「えっ!? それも無いんですか!?」
以前に「ワイルドフラワー」の面々が悪足掻k……手を尽くして調べていたのを知っているシュウイの言葉に、絶望的な声を上げる二人。
「野営用の調理器具と言えば……鍋の他は焼き串くらいじゃないかな? あとは、包丁代わりのナイフだね」
「菜箸とかも売ってないから、必要なら手作りするしか無いよ?」
「それと、食器の類もアイテムバッグを圧迫するからね」
「これも残念な事に、コッヘルみたいな重宝なものは無いから」
「「うぅ~……」」
次々と明らかにされる厳しい現実に打ちのめされ、既に涙目になっている二人。
その様子を見ながら、シュウイは二つほど気になっている事があった。
(……付喪神の話って……調理道具にも適用されるのかな……?)
だとしたら、できるだけ良いものを買わせた方が好いのかもしれないが……
目線でナントに訊ねてみると、事情を呑み込んだらしいナントが、
「……少なくともナイフに関しては、最初から良いものを買っておく事をお薦めするね。品質が良いのなら、必ずしも新品に執着する必要は無いと思うよ」
――今の段階で彼らにできるアドバイスは、これくらいだろう。
もう一つシュウイが気になっているのは……




