第八十三章 トンの町 11.「ナントの道具屋」(その3)
「領主に謁見? 僕がですか?」
「うん。ほら、前回ドリアとマンゴスタを献上したのに続いて、今度はズートの実なんか持ち込んだものだから、さすがに領主様も気になったみたいでね」
ナントは以前にも領主経由で――ミミックジャガーの毛皮なんていう代物を――王家に献上した事がある。その時は出所を明らかにはしなかったが、今回の件と関連付けられたのは間違い無いだろう。
「で――僕に出頭命令が下ったと?」
お偉いさんからの呼び出しに困惑するシュウイであったが、
「あぁ、少し違うんだな。呼び出しではなくて、できれば会いたいというだけだよ。僕は領主様からの打診を託かってきただけ。最終的な決定権はシュウイ君にあるし、勿論断るのも自由だよ?」
――という事は、〝断らない方が良い〟という意味だろうと、正しく解釈するシュウイ。
「……解りました。お受けしたいと思いますけど……」
「うん? 何かあるのかい?」
「もうすぐテストが近いんですよ。なので、今までのようにログインができなくなりそうで……後に廻してもらう事ってできますかね? 面会」
「あ~……多分大丈夫だと思うよ。……そうか、高校生はそんな時期か……」
――そう話しているうちに気が付いた。新人二人もテストが近いのではないか?
・・・・・・・・
「え~と……はい、もうすぐ中間試験ですね」
「あまりログインできなくなりそうで……その辺とか相談しておきたかったんです」
「あ……やっぱり……」
互いの試験日程がほぼ重なっている事を確認し、テスト明けまでは控えようという事で合意する。さすがにこの歳で、テストや人生を投げる気にはなれない。
領主との対面もその頃という線で、ナントに調整してくれるよう頼む。
「こっちはそれでいいとして……二人はさっきから何を見てたのさ?」
「随分熱心に物色していたよね?」
シュウイとナントの問いに二人が答えて言うには……
「え? 携帯食料と調理器具?」
「あ~……君らもついに気付いたかぁ~……」
シュウイがイーファンの宿場に出かけている間に、二人はSRO内で噂――勿論悪評の方――になっている携帯食料の味を試食して……そして挫折したらしい。
「このゲーム、どういう訳か、携帯食料の不味さが際立ってるんだよねー」
「食堂とか屋台の料理は、普通に美味しいんですけどね」
「食べてみて実感しました……」
「アレは耐えられそうにありません……」
商用版のSROでは、β版よりも味覚が向上しているにも拘わらず、携帯食料の不味さは改善されていない。なまじ街中での食事が美味いだけに、虐待とも言える携帯食料の不味さは、第一陣プレイヤーたちの心を折るに充分過ぎた。その事については掲示板などで――声を大にして――警告されているのだが、実際どの程度に不味いのかは、実地に確認するしか無いのであった。
「代替品になりそうなものを探してみたんですけど……」
「あぁ、そのまま食べられるようなのが無かったろ?」
「「はい……」」
保存食の類は無論あるのだが、カチカチに干し固められたものであるとか、塩気がきつくてそのままでは食べられないとか、そういったものしか無いのである。
「それで……もぅこうなったら自炊するしか無いかと……」
そう思い詰めて調理器具を物色していたらしい。
「……って事は、【料理】スキル持ってるんだ?」
「いえ……リアルでの経験は少しあるんですけど……」
「それだけじゃ駄目ですか?」




