第七十二章 篠ノ目学園高校 2.昼休み(その2)
不意を衝かれて思わず硬直した蒐一を見て、要は少し驚いた様子を見せた後に苦笑した。
「驚かせてご免なさい。蒐君、ナントさんの手持ちが残っていたら、『鼓吹の鈴』を買っておいてもらえないかしら。もし売り切れなら、次回の入荷予約をお願いしたいのだけど?」
金貨二枚と些かお高めだが、終盤用のアイテムが今の段階で手に入るというなら、買い逃す手は無い。モンスター素材でお大尽な蒐一なら、それくらいの手持ちはあるだろう。
「あ! だったら蒐、こっちにも一つ頼む!」
聞き耳を立てていたらしい匠もすかさず参戦する。
「え? ……まぁ良いけど」
こういうところは抜け目の無い友人に呆れたり、逆に頼もしく思ったり。ともあれ蒐一はナントに連絡を取る事を心に留めた。
「で、僕の事ばかり突っ込んでくれたけど、そっちの方はどうなのさ?」
追及する蒐一に頭を掻いて、
「いや~、こっちは例の秘密クエストの最中でな。話せる事は無いんだわ。あ、でも、ヴォークの実とかいうのがあるそうだぞ?」
「へぇ?」
「それはどういうもの?」
ヴォークの実の事は知らなかったらしい要も興味津々なのを見て、匠はリャンメンの村で聞いた話を開陳する。日当たりの好い林に生えるが、生える場所が限られているから高値で取引される。リャンメンの村周辺で見かけたという話は無いらしいが……
「……思わせぶりな説明よね」
「だろ? うちの連中もそう言ってた。探せば見つかるんじゃないかって」
「ねぇねぇ匠君、それって、そこの村だけなの?」
「いや。どこに生えてるのかまでは聞きそびれたけどな。日当たりの好い林って事だから、ナンの町の近くにもあるんじゃないのか?」
「ねぇねぇカナちゃん、イーファンの森にもあるかなぁ?」
「無いとはいえないわね。丁度好いから探してみましょうか」
「あ……そういえばお前ら……」
「えぇ。イーファンにも第二陣が多くてね。今は彼らの目を避けて、現在絶賛山籠もり中よ」
要と茜から聞かされたイーファンの町の状況に、うわぁと顔を顰める男子二人。匠は当分イーファンとトンには近寄るまいと決意する。一方で蒐一の方はと言えば……
(……イーファンの辺りに良い素材があるって噂を流したら、何人かそっちへ行かないかな? βテスターがいるっていう話は……流石に漏らしたら拙いかな……?)
……などと悪辣な事を考えていたりする。
「……蒐君?」
「うん? どうかした?」
速やかに悪巧みの事を念頭から消し去り、爽やかな表情で問い返す蒐一。そんな蒐一を僅かな疑いの籠もった目で見つめる要。そして、そんな二人の丁々発止に気付く余裕も無い様子の茜。
「うぅ~……ご飯がぁ~……」
「「???」」
思わず疑問符を浮かべた男子二人に、苦笑いして要が説明を補足する。
曰く、「ワイルドフラワー」に料理スキル持ちはいないのだと。
「あ~……そう言や、前にもそんな事を言ってたっけな」
不精者の友である冷凍食品はおろか、電子レンジもガスコンロも、醤油・ソース・ケチャップ・マヨネーズなどの調味料も無いSRO世界での野営は、食糧事情がかなりアレな事になっている……普通のパーティなら。
「匠のところはどうなんだ?」
「あ~……うちは大抵俺が作ってるな。他の連中に任すと、碌なもんは出てこないから」
食い意地のゆえにリアルの調理技術まで上達させた匠は、キャンプ料理も一通り以上にこなせるため、SRO内でも野営時の食事に不自由はしないのであった。
「うぅ~……匠君、こっちへ来れない?」
「無茶言うな。こっちはこっちで秘密クエの真っ最中なんだぞ?」
「茜ちゃん、こないだ対策を考えたんじゃなかった?」
「うぅ~……対策を考えるのと料理が上達するのとは、別次元の問題なんだよ~……」
「「あぁ」」
男子二人が納得したところでチャイムが鳴った。
「あ~あ、放課後は文化祭の準備かぁ」
「まだ先の事なのにね」
「中間試験が終わってから一週間後に文化祭だし、準備の時間があまりとれないから――って事みたいよ?」
「匠は試験の準備は大丈夫なのか?」
「……聞くな……」
一際どよんとした雰囲気を纏った二人を引き連れて、蒐一たちは教室に戻った。
お気付きの方もおられるかと思いますが、「ワイルドフラワー」の料理話は、コミックス版一巻の巻末SSを踏まえています。




