第七十二章 篠ノ目学園高校 1.昼休み(その1)
「なっ! 蒐、お前、そんな事やらかしたのかよ」
「パワハラで訴えられそうな所業よね……」
「蒐君、極悪人~」
「何でだよ!」
昼休みの屋上で友人三人からの容赦無い突っ込みを受けて、不服そうに口を尖らせているのは巧力蒐一、SRO内ではシュウイの名前でプレイしている「トリックスター」の少年である。ゲーム内でのやらかしを突っ込まれるのはもはや日常茶飯事と化しているが、本日の突っ込みは少々色合いが違う。
「蒐、お前一人で何かするのはもう仕方がないとしてだな」
「他人を巻き添えにするのはどうかと思うわよ? 蒐君」
「それも、何も知らない初心者だもんね~」
どうやら昨日シュウイが行なった、新人の特訓が物議を醸しているようだ。……いや……あれが問題にならなかったら、そちらの方がおかしいとも言えるのだが。しかし、シュウイにはシュウイなりの目算があって……
「だから何でさ? 二人には経験値とドロップ品が入るし、安全は一応保証されてるし、所謂レベリングってやつじゃん?」
二人とも戦闘職は希望していないので、志望職種関連のスキル以外で伸ばすべきは自衛のためのスキル、特に逃走系と隠蔽系。逃走系スキルの伸ばし方は今一つ解らないが、隠蔽系スキルについては一家言あるのがシュウイである。モンスターハウスを隠蔽系スキルの重ね掛けで突破したのは伊達ではないのだ。
「いや……世間で言うところのレベリングとは違うからな?」
「前回の特訓もかなり無茶だったけど、今回のはそれに輪を掛けて……」
「恨まれても知らないよ~? 蒐君」
「まぁ……実際にスキルが生えたんなら、そこまで恨みはしないと思うけどな……」
「それも問題の一つよね。【咆吼】を拾ったって言ったかしら?」
「うん。本人はそう言ってた。何か普通よりも早く拾えたみたいだけど」
「普通は【大声】を拾って【咆吼】に育てるもんだからな……」
「シャウト系の詩人さんになるのかな?」
「いえ……それはそれで面白そうだけど……【咆吼】はただ吼えるだけのスキルじゃなかった筈よ? うろ覚えだけど、確か……声に魔力を乗せて届けるというのがその本質だったと思う。吟遊詩人とは案外相性が良いかもね」
「へえ。だったらやっぱり間違ってなかったって事じゃん?」
「蒐……結果よりも途中経過が大事だって習わなかったか?」
「〝終わりよければすべてよし〟なんて誤魔化しだよ?」
「取り敢えず、あまり無茶はしない方が良いと思うわよ?」
三者三様の駄目出しを喰らって、ひょっとして少しスパルタ過ぎただろうかと考え直す蒐一。これが原因でSROを辞めるような事になっては申し訳ない。指導クエストも失敗になるだろうし。
「う~ん……みんながそう言うんなら、少し考えてみる」
「それが良いと思うぞ」
「それで……『鼓吹の鈴』って言ったかしら? ナントさんが販売権を獲得したアイテム」
「あ、うん。そんな変な名前だった」
「まぁ……確かに太鼓でも笛でもないからなぁ」
「一応打楽器ではあるんじゃない? 鈴」
少しズレた議論を始めた匠と茜を横目に、要は鈴の効果を確かめる。
「術者のバフとデバフを強化する……そうなのね?」
「うん。ナントさんはそう言ってた」
「そんな代物を、こんな序盤で、しかもトンの町で販売する……酷い騒ぎになりそうよね……」
「酷い?」
「あぁ、ご免なさい。何と言ったらいいか……第一陣のアドバンテージを一気にひっくり返しそうなアイテムを運営が放出した事が気になっていたんだけど……ひょっとして……いえ、多分確実に、運営の想定外だったんでしょうね……」
何やら考え込んだ様子でぶつぶつと呟き始めた要を見て、そこはかとない不安を覚える蒐一。何か拙い事をやっただろうか?
「あの……要ちゃん……?」
「……蒐君が【迷子】でスーファンの町に辿り着き、そこで買ったドリアとマンゴスタをナントさんが領主に献上……どれ一つとっても、運営には予想も対策もできなかった筈……という事は、『鼓吹の鈴』は本来ならゲーム終盤……少なくとも中盤以降で出てくるアイテムという事……」
「ね、ねぇ……要ちゃんってば……」
おっかなびっくり蒐一が声をかけたところで、くるりと要が振り返る。
「――蒐君?」
「はいぃ!?」




