第七十一章 運営管理室 2.リャンメンの村
「あのフクロウの性格はどうなんだ? 一般的な事なのか?」
困惑するスタッフたちの視線が向いている先には、マギルの頭上に機嫌好く鎮座している小さなフクロウの召喚獣がいた。
「好感度が高いだけみたいですけど……」
「それだ。最初からああまで好感度が高いというのはおかしくないか?」
「どうなってる? 中嶌」
「待って下さい……えぇと……餌付けタグが付いてますね」
「餌付け?」
「そんな行動があったか?」
あのフクロウは召喚早々から好感度が高かった。そこに餌付けなどのアクションは無かったようだが?
「いえ……フクロウの方のログを見ると、召喚契約の前に餌付けされた事になってますね……」
「はぁっ!?」
「何だよそれ!?」
ただの召喚獣だと思っていたら、地味に爆弾を抱えていたらしい。慌てたスタッフが「マックス」の会話ログをチェックしたところ……
「……召喚術取得前の行動じゃないか……こんな事までフラグになるのかよ……」
「掲示板でも話題になってるな……『トリックスター』にかかりっきりで、注意が疎かになっていた……」
「女帝のチームが張り切ってたみたいだからなぁ……」
従魔AIの設計は、モフモフの女帝こと戀水女史が率いるチームに任されていた。なので運営管理室のスタッフも、モフモフたちについてはあまり詳しい事情を知らなかったりする。
「召喚者よりも召喚獣の意思を尊重するって、開発の連中が言い切ってたからなぁ……」
「あぁ……『モフモフの女帝』の追従者たちか……」
「まぁ……SROは住人の自主的な判断と行動も売りの一つなんだ。従魔やモンスターもその範疇に入ると考えれば、開発の連中を責める事もできん」
意味ありげに割って入った木檜に、スタッフたちの視線が集中する。
「……何か知ってるんですか? 木檜さん」
「知っているというか、思い出したんだ。以前に妙な性格の泉の精霊が出た事があったろう」
「あぁ……そう言えば……」
「『トリックスター』の水汲みクエストの時でしたね……」
「あぁ。妙な性格のAIだったんで関係部署に確認してみたんだが、やっぱり試験的な配置だったらしい。ただ、遭遇したのが選りにも選って『トリックスター』だったから参考にならんという事で、試験自体はそのまま続ける事にしたようだ。で、その時ついでに訊いてみたんだが、他にも癖のあるAIを搭載したNPCキャラがいるらしい」
「……あのフクロウがそうだと?」
「いや。あの程度は癖のあるうちに入らんという事だ」
しれっと厄介ネタを投げ込んできた木檜にウンザリした視線を向けるスタッフたちだが、あのフクロウに関して言えば、単に召喚者に懐いているだけである。〝癖のある〟と言うほどのものではないだろう。
「……まぁ、その事はいいんですけど、試験的なキャラクターがいるなら予め教えてもらうとかはできないんですか?」
「知ってしまうと目を配る事が期待されるぞ? 幾つあるか判らんトラブルの種を、一々チェックするような真似がしたいのか? 俺は御免だぞ?」
確信犯的に伏せていたらしき木檜の言動を聞いて、スタッフたちはしばし黙考していたようだが……
「……取り越し苦労はやめておかないか?」
「……そうだな……試験的なキャラが必ず面倒を引き起こすと決まった訳ではないし……」
「マンパワーに制限がある現在、そこまで手を伸ばすのは無理だろう」
斯くして管理室は、チーフ木檜の方針を遵守する事に決まったのであった。




