第七十章 ナンの町~「黙示録(アポカリプス)」~ 2.血小板製剤
そう言ってケインが二人に注射器――こちらの呼び名では吸血器――を手渡す。血小板製剤を吸い上げて……
「……まさかゲームの中でまで、注射のお世話になるたぁ思わなかったぜ……」
「……あまり好ましい事ではないんだが……」
揃って注射嫌い――好きな者はいないと思う――をカミングアウトした二人に、他のメンバーから叱咤と激励の声が掛けられる。
「……解ってらぁ……やるよ……」
「……ゲームでも、注射の痛みはあるんだな……」
「……マジかよ……つっ! ……おぉ、けど……」
「正解だったみたいだな。毒状態解除のメッセージが出た」
勇気ある二人の志願者による人体実験の結果、ワイルドボアの血小板製剤は死刑宣告者の紫斑毒に有効であると確認された。
「これで討伐の目処は立ったな」
心強そうに頷くケインであったが、そこへ何やら考え込んだような様子のヨハネが待ったを掛けた。
「何か問題があるのか?」
「問題と言うほどではないが……これは本来の討伐法ではないかもしれん」
「何?」
「どういうこった?」
怪訝そうなパーティメンバーたちに、訥々と自分の考えを述べていくヨハネ。一応はトンの町のモンスターから得られているのだから、正規の方法ではあるのだろう。しかし……
「入手方法があまりにもイレギュラー過ぎる。シュウイ君の話に拠れば、住人の薬師すら知らなかったらしいからな」
ヨハネの指摘にう~んと考え込む一同。確かに、【調薬(邪道)】なんて妙なアーツで発見された特効薬である。普通のプレイヤーが気付くようなものではないような気がする。
「……だとしたら、本来の討伐法は何なんだ?」
「βテストでやったようなレイド戦じゃないのか? シュウイ君が面白い方法を提案してくれたそうじゃないか」
「犠牲が出るのは覚悟の上かよ……」
「いや、盾のようなものを揃えておけば、毒による被害は最低限に抑えられるだろう」
「いや……ちょっと待て。……この解毒剤だが、少なくとも住人の薬師なら作れるわけだ。そうすると問題は、薬の処方を知っているかどうかじゃないのか?」
何かに気が付いた様子のケインが割って入った。
「あぁ? だったらどうだってんだ?」
「いえ……ナンの町の住人なら知っている――って事ですか?」
「あり得ない話じゃないだろう?」
成る程。死刑宣告者がいない町の薬師であれば、解毒剤の事を知らなくても不思議ではない。逆に、死刑宣告者に脅かされているナンの町の薬師なら、解毒剤の処方を知っていてもおかしくない。
「解毒剤に関する情報を得るには、ナンの町の住人との交流が必要……ここの運営が好きそうな展開よね」
ベルの台詞に納得の声を上げる仲間たち。そういう展開なら充分に考えられる。運営の想定をシュウイ少年がひっくり返しただけだろう。
「ま、運営の思惑は措いといてだ、死刑宣告者を討伐するってんなら、解毒剤の数は揃えておく必要があらぁな」
「ナントが幾つかストックを持っている筈だが……」
「足りるかどうかは微妙よね」
「足りないと考えた方が良いだろう。ごく短時間の闘いでも、五人のうち二人が毒を喰らったんだ。戦闘が長引いたり、討伐に参加するパーティが増えれば、被害者も当然多くなる」
「つまり……」
「原料となるワイルドボアの血液を、もっと集める必要があるな」
「シュウイ少年にばかり頼る訳にはいかん。ここは一つ……」
「あぁ、ボア狩りの周回って事になるな」




