第六十九章 イーファンの町~「ワイルドフラワー」~ 2.イーファンの町
「……ねぇ、何か、妙にごった返してない?」
「ん。プレイヤーの数が多いような気がする」
「第二陣のプレイヤー? でも、何でトンの町じゃなくてイーファンの町に?」
「それに……気のせいかやたらと住人に愛想が好くない?」
いつもと違う町の様子に困惑を隠せないメンバーたち。対してシュウイこと蒐一からトンの町の現況を聞いていたカナとセンは、あぁやっぱりという態度である。
「……カナ、セン、何か知ってんの?」
「えぇ。実は、今日学校で友人から聞いたんだけど……」
昼休みに蒐一から聞いた指導クエストの話を、パーティメンバーに披露する。その話は大半のメンバーには初耳であったらしく、また、掲示板を覗いて話のさわりだけ知っていた者も詳細な情報までは知らなかったとみえて……
「……指導にあぶれた第二陣が、一か八かでここまでやって来てるのかぁ……」
「これは……トンの町には近付かない方が良いな……」
「ん。イーファンが限界だと思う」
「と言うか、ここも既にヤバい感じじゃない?」
「これは……ギルドには近付かない方が良さそうね」
これだけの新人プレイヤーが来ているという事は、十中八九ギルドの指導員も足りていない。となると、トンの町と同様に第一陣プレイヤーに対して指導クエストが出されている可能性は極めて高い。
「まぁ……普段なら後輩の指導を引き受けるに吝かではないんだけど……」
「今はちょっとね……」
「ん。使役術の試用と確認を優先したい」
「下手をすれば、トンの町に行くように依頼が出される可能性もあるわよね」
「あ……」
「考えられなくは……ない、か……」
「でもカナちゃん、他所の事まで気にしてる余裕があるのかな? あれって多分プレイヤーさんだよね?」
センが指差した方に見えるのは、妙に積極的に住人に声かけとお手伝いを申し出ているプレイヤーたち。どちらかと言うと、住人の方が戸惑っているように見える。
「確かに……ギルドでの指導に漏れたプレイヤーみたいね……」
「あぁ……もう後が無いから必死なのか……」
「今ギルドに行ったら、拘束されるのは不可避だよね……」
現在カナたちはイーファンの中心部から離れた場所で、人目を避けるようにして町の様子を観察している。蒐一からトンの町の様子を聞いて、不用心に近付かない方が良いと判断したのだが、予防策が見事に功を奏した形である。
「行かない理由をもう一つ挙げれば、採集とかの依頼を受けて新人プレイヤーの仕事を奪うのは好くないと思うのよね」
「あぁ……今回は討伐依頼は受けない事にしたから……」
まだ未確認ではあるが、センの言うように、従魔契約に影響しそうな討伐依頼は受けない方が無難だろう――と、いう事に話が纏まっていた。なので採集依頼でも受けようかと思っていたのだが、それを受けると新人たちの受注した依頼ともろに被りそうな気がする。依頼品の奪い合いのような事になって、新人たちの活動を邪魔するのは申し訳無い。
「運営もその辺は配慮していると思うけど……何となく、やらない方が良いような気がするんだよね」
こういう時のエリンの勘は当たるから、やはり近寄らないのが無難だろう。
「同じものを探している新人に出くわす――とか?」
「あ~……大いにありそうだよなぁ……」
「もう一つ。多分だけど、町に行っても宿は取れないと思う」
「あ……」
「あの人数じゃあねぇ……」
「ん。とっくに埋まってる筈」
「これは……野営一択かぁ……」
元々今回のイーファンには、従魔契約するモンスターの物色に来たようなものだ。極力モンスターとの戦闘を避けつつ契約の相手を見繕うだけだから、町に繰り出す必要は無いと言えば無い。それに、カナたちはそれなりに経験を積んだパーティなので、一泊や二泊の野営ならいつでもできるだけの用意はしてある。してあるのだが……
「……一日くらいなら、保つよね? 食糧」
「携帯食料もあるし……それくらいなら……」
「リアルでも少しは頑張ってるし……もし、万一、料理をする事になっても……多分……きっと……前みたいな事には……」
……唯一の懸念は、メンバーのほぼ全員が料理スキルを――ゲーム内でもリアルでも――取得していない事であった。ましてSROの世界には、不精者の友である冷凍食品はおろか、電子レンジもガスコンロも、醤油・ソース・ケチャップ・マヨネーズなどの調味料も無いのである。キャンプ料理まがいの調理技術など、持ち合わせている者は一人もいない。
多少の不安を抱きつつも、「ワイルドフラワー」は野営を選択してフィールドに入るのであった。
お気付きの方もおられるかと思いますが、「ワイルドフラワー」の料理話は、コミックス版一巻の巻末SSの設定を踏まえています。




