第六十七章 トンの町 3.新人指導~モックの場合~(その3)
新人たちの装備を揃えたところで、シュウイが徐に口を開く。
「さて、それじゃ次は……」
昨日の経験に照らして思わず身構える新人であったが、シュウイの口から出てきた言葉は、意外にも穏当なものであった。
「二人とも、運動とか逃走に関するスキルは取ってる?」
「あ、いえ……」
「取ってません。……何が良いか判らなかったので……」
「解った。それじゃ、リアルで武術とか運動の経験は?」
「ありません……あたし、運痴なんです……」
「僕も特には……運動の方も人並み程度です」
アバターの身のこなしから予想していたとおりの答えに、一つ頷いて諒解を示すシュウイ。なら、計画のとおりでいいだろう。
「なら、体捌き程度は教えるから、暇な時に練習しといて。気長にやってれば、上手くすればスキルとか生えてくるかもしれないし。二人とも戦闘向きじゃないみたいだし、態々ポイント支払ってまで戦闘スキルを取る必要も無いしね」
二人が頷いたのを確認して、シュウイは話を続ける。
「【警戒】と【隠蔽】は昨日育てたからいいとして……」
二人の表情がどよんと曇る。
「あとは逃走系のスキルがあると良いんだけど……正直、僕はこの手のスキルに詳しくなくて……」
あの暴れっぷりなら、逃げるなんて考慮の外だろうなと納得する二人。
「二人とも走るのが苦手なら、スキルとして取るのも良いかもね。ただ、陸上競技風な走り方じゃなくて、急発進・急停止とか、急な方向転換とか……そういう方面のスキルが便利だと思う」
シュウイの指摘を聞いて、成る程と感心する新人二人。
「それと、これも知人からの情報なんだけど、【平衡感覚】ってスキルが割と便利みたい」
【平衡感覚】の情報を二人に教えるに当たっては、予め匠に事情を話して了承を貰っている。新人でも効果があるのかどうかの検証になるという事で、「マックス」のメンバーも同意してくれたようだった。
「【平衡感覚】?」
「ですか?」
「うん。名前のとおりバランスを保つスキルみたいで、戦ったり走ったりする時にも、身体の動きが向上するみたい。採掘なんかの時にも便利じゃないかな」
どうやら【平衡感覚】は初期段階から取得できるスキルらしく、二人とも早速取得していた。その様子を見たシュウイが密かに羨望の溜息を漏らしたのも、昨日と同じ光景であった。
「あ、秘密ってほどじゃないけど、あまり言い触らさないでもらえるかな?」
「「はい」」
「それで、『吟遊詩人』の鍛え方なんだけど」
「……はい?」
不穏な気配を感じたモックの声に、警戒の響きが混じった。




