第六十七章 トンの町 1.新人指導~モックの場合~(その1)
(とりあえず最低限のラインとして、新人の二人に【隠蔽】を取らせたけど……)
SROにログインしたシュウイは考えていた。新人たちの今後の指導をどうするべきかと。
シュウイの考えでは、当面ソロでやっていくしかなさそうな新人二人には、何よりも生き残るためのあれこれを取得させるべきである。とりあえず危険なモンスターを避けるための【隠蔽】と【警戒】は、両方レベル2に上げる事ができたようだ。そして新人に不足気味の資金についても、シュウイと仮のパーティを組む事で、【落とし物】のお裾分けに与っている。ドロップ品の買い取り価格は、そこそこの金額になった筈だ。
(まだまだプレイヤーとして活動するための条件をクリアーしたか、あるいはクリアーしつつあるって段階だよね。まずは身の安全を図るための手段をもう少し充実させて……それから、吟遊詩人と宝石職人としての活動ができるように指導しないと……)
方針としては間違っていないと思われる。――方針としては。
「そのためには…………うん、これならどうかな…………」
・・・・・・・・
「「お早うございま~す」」
「……ございま~す」
元気良く住人に挨拶していく新人二人と、それに続けて挨拶するシュウイ。
「……二人とも、随分礼儀正しいんだね」
「お世話になる方たちに挨拶するのは当然です」
「まぁ……ぶっちゃけた話、住人への挨拶励行っていうのは、好感度を上げる方法として掲示板にも載ってるんですよ」
得意気に澄まして答えたエンジュの横から、身も蓋も無い打算を説明するモック。裏事情を曝露されたエンジュがむーっと膨れっ面をしているのを、どこか既視感を感じつつ眺めるシュウイ。
「所謂オアシス運動ってやつですね」
「オアシス……あぁ……おんどれ、アホンダラ、死にさらせ、スカタン……だったっけ?」
「「違いますっ!!」」
斯様に微笑ましい遣り取りはあったが、シュウイたちは目的の店に到着していた。もはやシュウイ御用達の感がある「ナントの道具屋」である。
「ここって……昨日お邪魔したお店ですよね?」
「うん、そう。βプレイヤーの人がやってるお店だから、色々と情報なんかも聞けるし……と言うか、僕が知ってる店って、バランド師匠の薬屋を除くと、ここしか無いんだよね」
あっけらかんとしたシュウイのカミングアウトに、些か面喰らった様子の新人二人。普通は冒険者ギルドの購買部か、ギルド推薦の店で色々と買い揃えるものではないのか?
「店内の様子は昨日も見たと思うけど、ここって大抵のものは置いてるんだよ。あちこち廻るより面倒が無いからさぁ」
狩りの度にあれだけのドロップ品を持ち込んでいるなら、それは色々と有形無形の便宜も図ってもらえるだろう――と、察する二人。
「そんな訳でここに来たけど、二人は他に行ってみたい店とかある?」
シュウイの言葉に二人は揃って首を振る。
「いえ、特には」
「と言うか、僕もエンジュさんも、一般とは少し違う装備が必要ですから。それが手に入るならどこでも構いません」
「だよね。その辺りの情報も、ここで訊いてみようかと思ってさ」
扉を開けて三人が店の中に入る。
・・・・・・・・
「ふ~ん……吟遊詩人と宝石職人の装備ねぇ……」
「置いてます?」
「どこまでのレベルを要求されるかにもよるんだけど……一応は仕入れておいたよ」
第二陣が来ると判っていたので、新人が必要としそうな装備を予め仕入れておいたらしい。今回新たに追加された職種についてもフォローしているのは、さすがの抜け目無さと言うしかない。
「まぁ、まさかシュウイ君が指導を受け持つとは思わなかったけどね」
「あはは。僕も予想外でしたから」
談笑しながらもナントはテキパキと品物を取り出し、カウンターの上に並べていく。
「さて……吟遊詩人の必需品である楽器は、初期装備として持っているよね? レベルが上がるまでは買い換える必要は無いから、お勧めはサブ楽器だね」
「「「サブ楽器?」」」
一様に目を丸くする三人に向かって、ナントは当たり前のような顔をして言い放つ。世にサブ武器というものがある以上、サブ楽器があってもおかしくはないだろうと。
「いや、真面目な話、吟遊詩人のスキルは楽器が無いと半減どころじゃないからね。万一楽器が壊れたりしても最低限の能力は発揮してほしいとなると、サブ楽器を持つしか無いだろう?」
「成る程……」
「言われてみれば……」
「お勧めのサブ楽器ってありますか?」
「うん、その前に、どんな楽器を持ってるのか見せてもらっても?」
「あ、はい」
そう言ってモックがアイテムバッグから取り出したのは……




