第六十六章 篠ノ目学園高校 2.昼休み(その2)
小首を傾げる男性陣に、今度は要が自分たちの置かれた状況を説明する。「ワイルドフラワー」の全員が【魔力操作】スキルを得た事で弟子入りクエストをクリアー、召喚術師や従魔術師としての第一歩を踏み出した訳だが、肝心の従魔契約をまだ誰も済ませていない事。契約相手を得るためにイーファンの宿場町に向かっている最中である事……
「……最中?」
「……って、どういう事さ?」
「あのね、午前中にナンの町を出る馬車が無かったの」
「夕方発の車中一泊の便しか無かったのよ。新規勢でごった返す前にと思ったから、それに乗ったんだけど……」
「待て、車中で一泊?」
「えぇ。初めて知ったんだけど、馬車の中でもログイン・ログアウトできるみたいなのよね。ログアウト中に馬車が襲われたら死に戻りになるみたいだけど」
初耳の情報に、おぉっという感じの男性陣。
「……でもさ、要ちゃん。イーファンの宿場町に新人勢が来ていないのは確かなの?」
「だから、蒐君の話が気になるのよ。トンの町がそんな状況だったら、無理してでもイーファンの町に行こうとするプレイヤーがいないとも限らないでしょう?」
「……と言うか、俺なら絶対行ってるな……」
「……そうだね。一か八かの組が想像以上にいそうな気がする……」
「だからどうなんだ――って言われると困るけど、何となく面倒事が起きそうな気がするのよね……」
この後、少し違った形でカナの予感は的中する事になるのだが、それはもう少し先の話になる。
「……で、匠たちはどうなんだよ?」
「あ~……ちょっとなぁ……前にも言ったけど、詳しい事は言えないんだわ。ギルドに口止めされてっから」
「お? 秘密クエストなのか?」
「……ま、な」
秘密クエストと言えば、かつてトンの町をオークから守った防衛戦の事が思い出される。そんな大仕掛けなクエストが発動中なのかと思えば気になるが、そこは追及しないのがマナーだろう。
「ここで話しても、運営さんには判んないんじゃない?」
……マナーを気にしない者もいたが。
「いえ……VRゲームって、要は脳波をモニターしているようなものでしょう? 隠し通すのは難しいんじゃないかしら?」
「それ以前に、喋りたくない事を無理矢理訊き出そうとするのは、ゲームの中でも外でもマナー違反だよ、茜ちゃん」
「む~……」
要と蒐一に釘を刺されて膨れっ面の茜であるが、自分の行ないがマナーに外れている事は自覚していたらしく、それ以上言い募る事はしなかった。
「あ、いや、そこまででっかい話じゃないんだけどな」
とはいえ、これ以上この話題を続けるのは色々と宜しくないだろうという事になり、そろそろ予鈴も近くなったので、四人は教室へ戻る事にした。
「――あ、そうだ。蒐、悪いけど、さっき言ってた歌枕流の捕り手術ってやつ、放課後少し教えてくれねぇか?」
「良いけど……あ、【介者剣術】に進化させる事にしたのか?」
「おう、先の事を考えると、そうした方が良いだろうって話になってな」
匠の発言に、帰りかけていた女性陣も興味を引かれたように立ち止まる。
「どういう事? 匠君」
「……対人戦闘の機会が増える……そう考えているのかしら?」
「あぁ。前にも話したと思うけどな、対人戦のスキルがシアの町の開放に関わってくるなら、先へ進むと対人戦の機会が増えるって事だろ? そうすると、単なる捕縛よりも、もう少し幅広い状況に対応できる方が良いような気がしてな。制圧スキルそのものは、蒐から捕り手術を習おうと思って」
気付いているのかいないのか、シアの町の開放云々という情報を漏らしたところで要がピクリと目を細めたが、何も言わずにスルーした。
「僕は構わないけど……」
「あ、良いよ、蒐君。匠君に付き合ってあげなよ」
「……そうね。その方が私たちも有用な情報が貰えそうだしね」
「悪っ! 今度何か奢るわ!」
斯くして、蒐一は放課後は匠に付き合って、捕り手術のお復習いをする事になるのであった。




