第六十六章 篠ノ目学園高校 1.昼休み(その1)
「や~……久しぶりって感じだね」
「実際五日振りだしね。それで、蒐君の方はどうだったの?」
「あ~……祖父ちゃんに叱られて呆れられた。モンスターばっかり狩ってたせいか、変な癖がついてるって言われた。……やっぱりPKを狩るべきかな……」
「そっちじゃなくて……いえ、それも充分興味深い話だけど……」
SRO内での経験がリアルでの技倆に影響するとなると、これは結構重大な内容なのではないか。そういう思いが要の脳裏を過ぎったが、それは専門家がどうこうすべき内容だと考え直す。自分たち末端のユーザーは、素直にゲームを楽しむのが正しい在り方だろう。
蒐一が帰省の話を持ち出した事で、話はそのまま休み中の近況報告へと流れ、その後で文化祭の準備の話に至る。連休中に旅行先のご当地カップ麺を買ってきたという生徒が結構いたのである。中には外国旅行先でボストンバッグ一杯買ってきたという猛者もおり、文化祭の準備は着々と進んでいる。蒐一たちのクラスは、試験期間前の放課後に、少しずつ準備をしていこうという事になっていた。
食事をする間ももどかしいとばかりに話していく四人であったが、近況報告が一段落付いた後は、当然のように話題はSROの事に移る。
「それで? 蒐君」
「うん、最初に言っておくべきは連休前の事かな。トンの町の訓練所に行ってみたんだけど……」
そこで対人戦闘の訓練を受けた事、歌枕流の捕り手術も――体捌きなどを少しSRO仕様に合わせる必要はあるが――特に問題無く使えた事、ザファル教官の、〝この辺りではまだ必要の無い技術〟〝これだけ使えるならシアの町に向かっても大丈夫〟発言など、重要と思われる事を報告していった。……が、締めくくりに持ち出した話題が、案の定全員を唸らせた。
「【奪刀術EX】って……」
「初めて聞いたぞ? そんなスキル」
「と言うか、抑EXが付いたスキルって初耳よ?」
「【掏摸】が関わってるんだよな?」
「どう考えてもね。僕自身は何もした覚えが無いのに、手の中に教官の剣があるんだもん。吃驚したっていうか、気味が悪いっていうか……」
「【掏摸】が進化したのかな? 匠君の【捕り手術】みたいに」
「けど、何のインフォも無かったよ。匠はあったんだよな?」
「あぁ……進化させるかどうかの確認メッセが出たな」
揃って首を傾げた一同であったが、どうせ【トリックスター】が関わってるんだろうという事で、それ以上の追求は止めにする。一々突っ込んではいられない。
尤も、今回は【トリックスター】は無関係で、管理AIの決断によるものであったが。
「他には? 蒐の事だから、それだけって事は無いよな?」
「人の事を何だと思ってるんだよ、匠。ずっと和歌山に引き籠もっていて、昨夜帰って来たばかりなんだぞ? そうそう変な事に巻き込まれる訳無いじゃん」
「うんうん、解ったから、何があったの? 蒐君」
「茜ちゃん……僕の言った事、聞いてた?」
蒐一の事を能く知る幼馴染みたちの追及を受けて、最終的に蒐一はトンの町の現状を話す事になる。この件には自分は無関係だと強調するのを忘れなかったが。
「……ちょっと待て、蒐。それって、つまり……」
「プレイヤーを巻き込んだクエスト、という事になるのかしら?」
「ねぇねぇカナちゃん、そんなクエスト、今までにあった?」
「いえ……私の知る限り、無いわね」
「だよなぁ……」
「そうなんだ?」
「あのな、蒐、住人の動きはプログラムしておけば済むけど、プレイヤーの動きなんか予定できねぇだろ?」
「あれ? ……だったら、このクエストって、終了条件は?」
「「「さあ?」」」
実はシュウイ以外にも受けたプレイヤーが数人おり、彼らが掲示板に情報を上げたため加速しているが、匠たちも自分たちのクエストなどで手一杯で、掲示板を見ている暇が無かったのである。どのみち新規組も連休明け頃から参入してきたので、問題が表面化したのはつい最近なのであるが。
北東のフィールドでの特訓については呆れられ、【掘り出し物】と【福笑い】の効果については感心された――「微笑みの悪魔」が降臨した事については、全員から生温かい視線を送られたが。
それよりも要たちが問題にしたのは、トンの町の現状であった。
「……つまり……現在のところトンの町は鬼門っていう事よね……」
「何を気にしてんだ? 要たちゃナンの町にいるんだろ?」
「それが、そうでもないのよ」




