第六十五章 トンの町 5.E級さん
E級に上がったばかりの冒険者にできる事は多くない。
何しろE級というのは、採集・討伐・護衛・雑用などの依頼をある程度こなせるという、技術面における最低限の保証のようなものである。よって、何種類かの依頼をクリアすれば誰でも――場合によってはレベル1のまま――サクサクとF級からE級に昇級できる。しかも、依頼は必ずしも個人で受ける必要は無く、パーティで受注してもクリアできるのだ。よって、最初は町の近くで薬草などの採集、および簡単な雑用クエストの受注。手持ち資金に報奨金を加えて装備を更新。パーティを組んで簡単な討伐依頼のクリア――と、一連のフォーマットが既に出来上がっている。最も効率的な依頼は何かという事まで検証が済んでいるのだ。
ある意味でE級に上がってからが本番で、どんなモンスターを狩り、どんな装備を揃えて先へ進むか、そして、スキルをどう使いこなすか――プレイヤーたちの関心は専らそこに集中している。
「……というのが、普通のE級だって思ってたんだけど……」
「……シュウイ先輩が普通でないって事でしょう」
少し疲れたような表情で本日の成果について話し合っているのは、第二陣でSROに参入したばかりの、エンジュとモックの新人二人である。
「色々と規格外の先輩だよね……」
「冒険者ギルドお奨めだけの事はありますよね……」
第一陣が住人との交流の重要性を指摘したため、第二陣のプレイヤーたちは住人の好感度を上げて有形無形の支援――情報やポーション、装備品から果ては従魔に至るまで――を得ようと血眼になっている。その一環として、冒険者ギルドの初心者講習を受けようとするプレイヤーが殺到したため、指導に当たる職員が足りなくなり、ついにはトンの町在住の第一陣プレイヤーに指導を外注する羽目になった。運営側の大誤算であると同時に、メインAIの大英断である。
斯くいった次第でシュウイまでもが新人の指導に引っ張り出されたのだが……NPCとの交流を望んでいたのに現れたのはプレイヤー、しかもE級に上がったばかりと聞いて、新人プレイヤーの大半は受講を拒否して去って行った。
「けど……蓋を開けてみれば……」
「駆け出しどころか驚きのレベル8」
「しかも、通常では接触できない住人に紹介してもらえるなんて……」
「人は見かけによらないよね……」
小柄で童顔、女顔と三拍子揃ったシュウイは、一見凄腕の冒険者には見えない。新人プレイヤーたちがシュウイを見限ったのは、外見に惑わされた部分もあるだろう。
「……僕、黒い死神って噂されるプレイヤーの事を聞いたんですけど……」
「あ、それ、あたしも姉から聞いた。姉は『朱の君』って呼んでたけど……PvPフィールドを血に染めたんだって……」
黒衣を纏って死をもたらすプレイヤーは他にもいるので、モックの聞いた話にはそちらの内容が混じっている可能性もある。しかし、エンジュが姉から聞いた話は、正しくシュウイの事であった。尤もこのゲーム、デフォルトの設定ではグロ表示が制限されているので、制限解除したプレイヤーを除けば、赤々しい流血沙汰は見えていなかったであろうが。しかしマイルドな表現であっても、シュウイがPvPで何をやらかしたかは伝わる訳で。
「何か……『解体天使』とも言われてるとか……」
「……多分、先輩の事でしょうね。……あの暴れっぷりを見た限りでは……」
「ドロップ品……凄かったよね……」
「僕らの訓練の方も、それ以上に凄かった……いえ、酷かったですけどね……」
「そうよね……」
新人二人の志望を聞いたシュウイは、当面ソロで活動する可能性が高い以上、危険回避の能力を高めておくのが喫緊の課題だと判断した。二人とも【警戒】は持っていると言うので、あとは【隠蔽】スキルを取得させて、それらのレベルアップを図れば良い。ついでにドロップ品が得られれば、当座の資金獲得もできて一石二鳥ではないか。
――という、シュウイ視点では論理的必然的な結論に至り、二人を連れて北東のフィールドへ出かけて行ったのである。狩りをやるのは自分だけ、二人はただ隠れてさえいれば良い。新人には危険が及ばず、経験値とドロップ品だけが手に入る。万一の事を考えて、PKが出る――と、シュウイは懸念しているが、肝心のPKプレイヤーたちはとっくにトンの町から逃げ出している――北のフィールドや、強モンスターの出る東のフィールドは外してある。己の配慮に内心得意なシュウイであったのだが……
「……今日だけで一生分、肝が冷えた気がします……」
「終わりの方は大分慣れた……と言うか、鈍感になってたけどね……」
「……それはそれで拙いような気がしませんか……?」
「うん……少し……」
【警戒】と【隠蔽】のレベルアップに加え、否応無く肝が据わった二人であったが、本日の成果はそれだけではない。
「ドロップ品の買い取り価格、凄かったよね……」
「えぇ。他の皆さんに申し訳無いくらい……」
シュウイの取引額に較べれば可愛いものなのだが、新人にとっては得難い資金ブーストであった。
「明日は装備品を充実させるって言ってたけど……」
「お手柔らかに願いたいですねぇ……」
規格外れのE級に指導を受ける事になったのは、果たして幸運なのか不運なのか。明日からのSROに思いを馳せる二人であった。
サブタイトルについてはお察しで。




