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コミック版二巻発売記念挿話 シルのお気に入り

 (しゅう)(いち)はシルの食事の事で悩んでいた。本やネットで調べたところ、草食のカメでも子供のうちは肉を与える必要があると書いてあった。なのにシルが喜んで食べるのは、ほとんど果実一辺倒。これで(すこ)やかな成長が期待できるのだろうか。



「運営は好きなものを食べさせろって答えたんだろ?」

「そうだけどさぁ……正しく成長させないと好き嫌いや偏食が出るとか、お肉を上げなかったら成長に時間がかかるとか……そういう落とし穴があるんじゃないかと思えてきて……」

「……あの運営の事だからな……」

「……無いとは言えないわよね……」

「う~……」



 根も葉も無い誤解なのだが、運営の普段の――シュウイ以外に対する――所業が所業だけに、その可能性を否定できない一同。運営管理室の面々がこの場にいたら慟哭(どうこく)していただろう。



「でさぁ、他の人たちはどうしてるのかなって思って……知らない?」



 問いかけられて考え込む一同。要は従魔や召喚獣にどんな餌を与えるべきかという話だが、これはそれなりに重要な事案のような気がする。



「……これは掲示板案件かしらね……?」



・・・・・・・・



 昼休みの屋上で四人の生徒が考え込んでいる頃、()しくもSRO(スロウ)の運営管理室でも同じ事が話題になっていた。



「……あの幻獣は、なんであそこまで果実水に執着するんだ?」



 ポツリと呟いた木檜(こぐれ)室長の言葉に反応したのは(とく)()であった。



「『トリックスター』の少年の従魔の事ですよね? シルとかいう名の?」

「現状で他に幻獣はいないだろう。その幻獣の事だ。いつだったか、あの少年から問い合わせが来ていただろう?」



 そう言えば――という表情で答えたのは、管理室のセカンドチーフを務める(たい)()



「確か……幻獣が塩気の食べ物を欲しがるが、与えても大丈夫かという質問でした」

「問題は無いんだな?」

「ありません。と言うか、少年への質問にも書きましたが、そこまで凝ったパラメーターは設定していません。開発の連中にも確認しました」

「だったら、あの執着と言うか好みは、あの幻獣だけのものなのか? それとも、他の従魔や召喚獣にも、それぞれの個体ごとに好みのパラメーターが設定してあるのか?」



 木檜(こぐれ)が投げ込んだ爆弾に、一瞬管理室が静まり返る。そこまで確認してはいなかったが、従魔や召喚獣のAIを設計したのは、あの「モフモフの女帝」率いる亡者たちだ。どんなパラメーターを仕込んでいるか知れたものではない。



「あのぉ~、いいですかぁ?」



 ――と、そこへ間延びした声で割り込んだのは、〝一言多い子〟と認識されている新人、一言夕(ひとことゆう)()と言う女性スタッフであった。



「前に戀水(こいずみ)先輩と話していた時に、先輩が漏らしたんですけどぉ、従魔(あのこ)たちの好感度って、手をかけてもらった分だけ上がるそうですよぉ」

「何だと?」

「詳しく話せ、一言(ひとこと)

「えぇ、ここからはあたしの推測になっちゃうんですけど……あの果実水って、主人であるシュウイ君が、自分の魔力を使って、シル君のために、態々(わざわざ)作ってるんですよね?」

「……それが従魔の好感度を上げているのか……?」

「待て、だとすると、他の従魔や召喚獣はどうなんだ?」



 スタッフたちが顔を見合わせた……どこか憂いと疲れを滲ませた表情で。



・・・・・・・・



 SRO内の掲示板「従魔を愛でるスレ」は、今日も今日とて結構な勢いで流れていた。「ワイルドフラワー」のリーダーであるエリンが――カナに命じられて――書き込んだ質問が原因である。



331:名無しの冒険者

従魔の好物ねえ……


332:名無しの魔術師

>>318

考えたことがなかったな。召喚獣は召喚者の魔力を与えるだけで十分だと書いてあったから……


333:リスを愛するテイマー

いや、欲しいものがあったら結構おねだりするよ?

うちの子はクルミが好物だけど、ドングリはあまり好きじゃない


334:ウルフと契約したサモナー

>>332

ツレがテイマーで、自分と同じくウルフと契約してるんですけど、モンスの肉とかがドロップしたらよく与えてるんですよね。それを見てると、こっちでも食べさせなきゃいけないような気になってくるし、何よりうちの子もじっと自分の顔を見つめるんで……


335:モフモフ愛のテイマー

>>334

わかる! わかるぞ同志よ!


336:通りすがりのテイマー

>>334,335

同意


337:鷹匠を目指すサモナー

>>334

実際に好感度は上がるみたいだよ。ステータスは変わってないけど


338:思案中のテイマー

問題は偏食とか栄養不良の可能性だが……ここの運営は鬼畜だけど、それは考えなくてもいいと思う。モフモフのAIを設計した人って、モフモフを愛する事では有名な人だから。モフモフたちを苦しめるようなことはしないと思う


339:居着いた魔術師

>>338

メタな解説乙。だが、同意できるとは思う


340:モフモフ愛のテイマー

そうすると、従魔たちの好物は何かというのが問題になるな


341:スライムを愛するテイマー

うちのスライム、好き嫌い無く何でも食べるんだけど……


342:名無しの冒険者

…………


343:狐と契約したサモナー

…………


344:ウルフを愛するテイマー

えーと……頑張れ?

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