第六十五章 トンの町 4.新人指導(その3)
「え? ダニエルさんが来てたんですか?」
新人二人をバランド薬剤店に案内したところ、そこで思いがけず「黙示録」の壁役が薬剤店を訪れた事を聞かされ、驚くシュウイ。何でも、以前に注文しておいた「吸血器」とその替え針が入荷したのを受け取りに来たらしい。
「ダニエルさん一人で来られたんですか?」
「いや、ナントのやつと二人連れじゃったな。何でも、他のパーティメンバーは用事があるとか言うておった。……能ぅ解らんが、何とのぅ表情が冴えなんだな」
少し首を傾げたバランドの説明を聞いて、あぁ、二人ともゴールデンウィークに予定が無かったんだなと合点するシュウイ。新人の二人も何となく事情を察したようで、微妙な表情を浮かべている。心中密かにナントとダニエルにエールを送るシュウイであった。
バランドに新人の二人を紹介し、ポーションを購入させておく。紙装甲の新人にとって、ポーションの確保は必須である。プレイヤーのほとんどは冒険者ギルドもしくはギルド指定の店で購入しているようだが、それら以外にもポーションを扱う店はある――このバランド薬剤店のように。
この「バランド薬剤店」は、βテストにおいては存在せず、正式サービスから導入されたNPC向けの店舗である。そしてNPC向けであるが故に、一般のプレイヤーには認識できない設定になっていた。
ナントがこの店を知り得たのは、βテスト時代に築き上げた住人の間の人脈――彼はβプレイヤー特典としてその人脈を正式サービスに引き継いでいる――がものを言った。商人仲間の住人からこの店の事を聞き、好奇心に駆られて訪れて以来の常連である。その後、冒険者ギルドがポーションの販売店として指定する中にこの店が無い事を知り、プレイヤーとしての好奇心から「黙示録」の面々にこの店を紹介したところ、それまで見えていなかった店舗が紹介後には見えるようになったと言われ、「バランド薬剤店」の客となるには何らかの条件を満たす必要があるのだろうという事になった。ただ、その条件というのが今一つはっきりしない――知人からの紹介というのはその一つではあろうが、ナント自身が住人から紹介された際の条件が今一つ不明――ため、検証板には〝住人との交流によって解放される店がある〟という程度の曖昧な情報しか流していない。
そのナントがシュウイにこの店を紹介したのは、一つにはβプレイヤー仲間のタクマから頼まれたのと、SRO開始早々にPK狩りの戦利品を山ほど持ち込むシュウイというプレイヤーに興味を引かれたためであった。……その後で、一級薬師のバランドに弟子入りしたと聞いた時には驚いたが。
一方、シュウイの方はそう言う経緯をまるで知らなかったのだが、先日タクマ……いや、匠とスマホで話した時に、そういった裏事情を知らされていた。新人二人の指導を任された際に、この二人をバランド薬剤店に連れて行って良いものかどうか判らなかったので、最初は店の前に二人を待たせてバランドに事情を説明したのである。そういう事なら別に構わないとの返事を貰って、二人を店内に案内したのだが……二人には何も無かったところに突然薬剤店が出現したように見えたらしく、大層驚いていた。その上に、売っているポーションが通常のものより少しだけ品質が高い事にモック少年が気付いた――迂闊にもシュウイの方は気付いていなかったのだが――事で、この店の特殊性に、そしてそんな店に普通に出入りしているシュウイの「偉大さ」を改めて認識する新人二人。既に二人の中でシュウイの評価は天井値を更新している。シュウイがいまだにE級だなどという指摘など、これらの事実の前には吹き飛んでしまう。
「二人とも、ポーションの補充は済んだ? なら、次の店に行くよ」
「「はいっ!」」
「と、いう事で師匠、もうしばらくこの町にいる事になりましたので」
「うむ。承知した。そうそう、ダニエルの事をあまり気に病むでないぞ? お主に迷惑をかけてはならぬと、敢えて連絡をとらなんだようじゃからな」
「……はい」
その後、ナントの店――こちらも事前に連絡して了承を得てある――で幾つかの道具や武器を購入した新人二人を連れてシュウイが向かったのは……
・・・・・・・・
「あ、あの……先輩……」
「こ、ここって……」
「どうかした?」
「どうかも何も……」
シュウイが新人二人を連れて来たのは、トンの町の北東のフィールドであった。
「二人とも、【隠蔽】は取得したよね?」
「「はい」」
「じゃ、今からここのモンスターを狩っていくから、襲われないように隠れててね。【隠蔽】に失敗すると襲われるから」
「「――っ!」」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと隠れていれば襲われないし、格上相手に隠れきれば、スキルもじゃんじゃんあがるから」
「「――っ!――っ!!」」
「逃げ出しても止めはしないけど、護衛もしないからね? そっちを選んでも、結果的に【隠蔽】スキルの訓練にはなると思うし」
「「…………(涙目)」」
「じゃ、いくよ」
斯くして、シュウイによる【隠蔽】スキルの特訓が幕を開けたのであった。
・・・・・・・・
「い、生きてる……」
「死んだかと思いました……」
「大袈裟だなぁ。ちゃんと護ってあげたでしょ?」
怨みがましい二人の視線を華麗にスルーしてシュウイは問う。レベルはどうなっているかと。
「……うわ……【隠蔽】と【警戒】が……」
「どっちもレベル2に上がってる……種族レベルも……」
「……2に上がってますね……」
「だろ?」
シュウイがこの特訓を思い付いたのは、東の泉に行く途中で出くわしたモンスターハウスでの経験が元になっている。あの時も、隠蔽系のスキルが揃ってレベルアップしていた。ここのフィールドはモンスターハウスに較べると脅威度が低いが、その分新人たちのレベルも低いため、首尾良くレベルアップできたようだ。序盤でこれらのスキルが上がるのは、ゲームを進めていく上で大きなアドバンテージである。それに……
「二人とも、ドロップ品はどうなってる?」
「え? ……うわ……」
「嘘……何なの、これ……」
「その様子じゃ収穫があったみたいだね。詳しくは言えないけど、僕のスキルなんだ。臨時でパーティを組んでるから、僕が狩ったモンスターのドロップがお裾分けされたんだよ」
パーティを組んでいるとそういう事があるのは二人も知っている。知ってはいるが……これは……それと同等に扱ってよいものなのか?
「まぁ、あまり気にしなくていいからね。新人さんは金策が大変でしょ?」
シュウイの場合はPvPやPK狩りで荒稼ぎしたが、新人の二人はそうもいかないだろう。なら、どうすれば良いかとシュウイが知恵を絞った結果、パーティを組んでのレアドロップのお裾分けという方法に思い至った訳である。他の者には真似できない金策ではあるが、別に他のプレイヤーの事まで気にしてやる必要は無いだろう。ただ、この件については二人に強く口止めしておかなくてはならないが。
「もう少しレベルが上がったら、モンスターハウスで更なるレベルアップを……」
「「お願いですからやめて下さい!!」」
「え~? 一番手っ取り早いのに」
コミカライズ版2巻発売記念SS第二弾、一時間後に公開の予定です。




