第六十五章 トンの町 3.新人指導(その2)
コミカライズ版2巻、明日発売の予定です。
新人冒険者の心得のようなものを冒険者ギルドの女性職員から訊き出したシュウイは、改めて二人の新人プレイヤーに向き直った。妙な成り行きで彼らの指導を冒険者ギルドから依頼――VRゲームでは珍しい展開である――された訳だが、さて何から始めるべきだろうか。しばし考えていたシュウイであったが、何はともあれお互いの事を知り合う必要があるだろうと結論した。
「自己紹介させてもらうけど、僕はシュウイ。君たちと同じプレイヤーで、ついこないだE級に上がったばかりの冒険者。種族レベルは8ちょっと」
――というシュウイの自己紹介を聞いて、新人の二人が驚愕の色を浮かべる。
このゲームでは、種族レベルが5になった時点で、大抵の者が転職する。転職後もそのまま冒険者ギルドに所属できるのだから、初心者と同義の冒険者のままでいる者などまずいない。ましてレベル8というのは――シュウイ本人は自覚していないが――第一陣の中でもトップグループか、それに次ぐ力量と言ってよい。それだけのレベルにありながら冒険者のままなのも不可解なら、冒険者のままでそこまでのレベルに到達したのは更に不可解である。何よりそれほどの実力者が、なぜ先に進まずトンの町などで燻っているのか。まして、E級に上がったばかりというのは……?
色々と怪訝そうな二人に、シュウイは頭を掻きながら答える。色々と事情があるのだと。
その事情というのは解らないが、ともあれレベル8の攻略組が指導をしてくれるのなら否やは無い。そう思っていたのだが……
「いや、僕は攻略組なんかじゃないよ」
「レベル8もあるのに、攻略組じゃないんですか?」
「あ、ひょっとして検証組の……」
「どちらでもない、ただの冒険者だよ。トンの町のギルドに所属してて、そろそろナンの町に移動するかなーって思ってた矢先に、君らの指導を任された訳」
「それは……」
「お手数をおかけします……」
「まぁ、E級のペーペーが指導員じゃ不安だとは思うけど、もうすぐギルドの職員が追加されるみたいだから、それまでの繋ぎと思っててよ」
レベル8のE級――普通ならとっくにD級かそれ以上の筈――というのも大概おかしな存在なのだが、当のシュウイはそんな事を気にしていないようなので、何となく突っ込むのを止めておく二人。空気を読むのは新参として重要なスキルです。
「とりあえず、君たちの事を教えてもらえるかな?」
新人二人は互いに目配せしていたが、少女の方から自己紹介する事にしたらしい。その少女はエンジュと名告り、宝石職人を目指していると言った。当面は、自力で宝石や貝殻などの素材を採集して、加工するのを目標にしたいのだと言う。
「へぇ、お姉さんも同じゲームをやってるんだ?」
「はい。姉はミモザという名前でプレイしていますから、どうせなら関連のある名前にしようと思って。ミモザと同じ仲間のアカシアの別名がハリエンジュだって聞いたから、そこからとったんです」
――と、自慢そうに言うのを、残念そうな目で眺めるシュウイともう一人の新人。
「いや……ハリエンジュはアカシアじゃなくて、「ニセアカシアだから……」」
「……え?」
半ば呆然とする少女を、属はちがうが同じマメ科だからといって宥めるシュウイ。姿形が似ても似つかぬ大豆や小豆も同じマメ科であるという事実は、言わぬが花というやつである。
「けど、お姉さんがいるならそっちに教わったら良いんじゃないの? 態々ギルドの新人研修なんか受ける必要無いんじゃ?」
「いえ、姉は姉でパーティを組んでいますし、既にナンの町にいるので……」
「あ~……そういう訳かぁ」
ちなみに、この時「姉」の所属するパーティ名を訊ねていたら、「ワイルドフラワー」という答えが返って来ただろうが、そこまで気が回らなかった事を責めるのは酷というものであろう。
二人目の少年はモックと名告り、吟遊詩人を目指していると言った。リアルで中学生なため、あまり遅くまでログインする事は禁じられているそうで、パーティを組むのは難しいと自覚しているらしい。当面はソロでやっていくつもりのようだ。
「何でまた吟遊詩人なんてマイナー職を?」
「どうせならあちこち旅をしてみたいんです。冒険者だと商人の護衛で町を往き来するだけか、モンスターを狩りに山へ行くだけじゃないですか」
「だからって……例えば行商人とかじゃ駄目なの?」
「行商人はレベルが上がっても、店を構えて商人にしかなれないじゃないですか。旅をするというのが大事なんですから。他に旅ができそうな職業は、どれも初期投資がかさみそうだったので……」
「あぁ……行商人は商品が、渡り職人は道具が必要か。……残るは旅芸人か泥棒ぐらいだね」
「泥棒はちょっと……」
そう言うモックの種族はハーフリング。第二次募集で解放された種族で、小柄で非力だが感覚と敏捷性に優れた種族らしい。ソロでやっていく事を考えて、あえてこの種族を選んだそうである。ちなみに、エンジュの種族は人族である。二人ともシュウイより背が低いが、別にそれが依頼を引き受ける理由になった訳ではない。……ない筈である。
「ハーフリングなんて種族、憶えが無かったけど、第二陣から解放された種族なんだ。……そう言えば、宝石職人って職もひょっとして……」
「あ、はい。第二次募集からだって聞いてます」
希望する職種も非主流派のようだし、果たしてこのトンの町に指導できる者が配属されるのかどうか。微かな不安を覚えたシュウイであったが、逆にそういう志望なら、自分のような者でも教える事はあるかもしれないと考え直す。
とりあえずは町の案内――そこから始めるのが妥当だろう。
コミカライズ版2巻発売記念SS、約一時間後に公開の予定です。




