第六十四章 ナンの町 2.ワイルドフラワー(その2)
検証班も頑張ってはいるのだが、少なくとも自分たちと同じクエストを受ける事ができるかどうかは疑問である。カナの予想では、バーバラ師匠が出現するサービス期間はもう終わりになる筈なのだ。
「ねぇねぇカナちゃん、この話、掲示板に上げるの?」
「もう少し考えてからにしたいわね。それよりも、今は各自が取得した使役術を使ってみた方が良いような気がする」
「え? いきなり?」
「確信は無いんだけどね。使役術の取得から弟子入り、【魔力操作】の修得まで一連のイベントである可能性を無視できないし、だとすれば、折角得た使役術を死蔵するのは拙いような気がするのよ」
「あ~、確かに」
「ここの運営だったら、しれっとしてそれくらいはやりそうよね」
「そうそう。何も言わずに知らんぷりして」
「ただ……そうした場合、この場所はどうなのかって事になるのよね……」
「「「「あ~」」」」
カナが指摘したのは、SRO内におけるモンスターの分布の問題であった――モンスターの出現傾向に明らかな偏りがあるという。
まず、トンの町は一種のチュートリアルフィールド扱いのようで、哺乳類・鳥類・爬虫類・昆虫類と、様々なタイプのモンスターが万遍無く出現するが、基本的には哺乳類が多い。
これに対してナンの町の周辺に多いのは爬虫類と昆虫類――正確には節足動物――であって、所謂モフモフ成分はとことん少ない。よって……
「う~……虫さんとかトカゲさんとか、テイムしたくないよ~」
と、いうような声が少女たちから上がるのであった。
「やっぱり……ここはサモナー勢が動くべきじゃないか?」
「いやいやリーダー、そりゃ、最初に出てくる召喚獣は、トンの町で見られるものが多いという事になってるけど、場所の影響が皆無と決まった訳じゃないから」
「同意。ゲテモノが出てくる可能性は少しでも減らしたい」
早めに使役術を試した方が良い。ナンの町には従魔にしたいモンスターがいない。よって、ここはテイマーでなくサモナーが【召喚】を試すべき――というリーダーの発言は、当のサモナー二人から渾身の反対を受けた。いくらモフモフ党でないとは言え、最初の召喚獣にトカゲだのクモだのカマキリだのという面子を引き当てたくはない。できれば可愛いモンスが欲しいではないか。
「ここは民主主義の原則、多数決で決めるべきだろ」
「不公平だ~。数の暴力だ~」
「SROの舞台が民主主義とは決まっていない。郷に入れば郷に従うべき」
「多数決を否定したとしても、どうやって決めるつもり?」
「あたし、こんな場所でテイムなんてしたくない!」
各人各様の意見と私情が入り乱れて収拾がつかなくなりかけたところで、カナがこの場所でテイムできない理由を理路整然と開陳する。
「抑、この場所に出てくるモンスターって、従魔に向かないものが多いのよ」
ファイアリザードは火を吹くトカゲだが、火魔法なら自前で使った方が早い。マーチングアントは大型犬ほどのアリだが、荷物運びや土木作業には向いていても、敏捷な敵や空を飛ぶ敵には分が悪い。ギガントキャンサーはゴッタ沼付近に現れ、それ以外の場所にはあまり現れない。トラップスパイダーは待ち伏せ型のモンスターなため、これも使いどころが難しい。
「だったら、まだしも使い勝手の良いものが出そうな召喚術に期待するのが筋でしょう?」
「その論旨には同意できない。ここは寧ろ場所を変えるべき。皆でトンの町に戻りさえすれば、何も問題は無い」
ミモザというメンバー――サモナーの片割れ――に反論され、それはそうかと考えかけたカナであったが、
「でも、ミモちゃん。明日から新人さんがいっぱい来るよ。トンの町は、すっっっごく混雑するんじゃない?」
というセンの反論に再び考え込む事になる。はてさて、これはどうしたものか。
「……中途半端な気はするけど、イーファンの宿場町まで戻るのはどうかな? あそこならまだ新人は多くないだろうし、モンスターの種類も少しトンの町寄りだから」
リーダーであるエリンの折衷案が受け容れられ、魔法少女パーティ「ワイルドフラワー」は、明日、馬車でイーファンの宿場町まで戻る事になったのである。
――そこで何が待ち受けているのか、知る事も無く。




