第六十四章 ナンの町 1.ワイルドフラワー(その1)
「あんたたちは予想以上に出来が良いね。一回でできるとは思っていなかったよ」
柔らかに笑うバーバラの台詞とともに空中に半透明のウィンドウが出現する。
《弟子入りクエストをクリアーしました。プレイヤーが「ガヴァネス」バーバラの弟子になりました。「ガヴァネスの弟子」の称号を得ました。【魔力操作】がレベルアップしました》
「ガヴァネス」というのはヴィクトリア時代のイギリスにいた女性家庭教師の事だったか、それとも女性長官の意味かだろうか――と、ぼんやり考えていたカナであったが、レベルアップ云々の文言を読んで慌ててステータス画面をチェックしている。他のメンバーも同様であったが、そんな事を気にも留めずにバーバラが続ける。
「今のあんたたちには、もうここで教える事は無いよ。巣立ちの時だ。外へ出て、見聞を広めてくるんだね」
物腰柔らかに、しかしきっぱりと告げるバーバラに、旅立ちの時が来たのだと悟る「ワイルドフラワー」。
「師匠……それではひとまずお暇します。またいつかお邪魔しますね? お土産を持って」
パーティを代表して、リーダーのエリンがひとまずの別れを告げる。
「あぁ。期待しないで待ってるよ。……忘れるんじゃないよ、あんたたちはこの年寄りの弟子だって事をね」
「師匠……ご指導、ありがとうございました」
「「「「ありがとうございました」」」」
・・・・・・・・
数日の間とは言え寝食を共にして教えを授けてくれた老婆とその家に別れを告げ、「ワイルドフラワー」の五名はナンの町へと歩みを進めている。
「いや~、終わってみれば美味しいクエストだったよね~」
能天気……とまではいかないにせよ暢気な感想を漏らすリーダーのエリンに、カナは苦笑を禁じ得ない。最後まで【魔力操作】が修得できず、ほとんど泣きそうになって練習に没頭していたのだが……。まぁ、最後から二番目にようやく修得できた自分が言える事ではないが。
終わってみれば、その【魔力操作】はレベル2に上がっていた。クエスト完遂のご褒美なのだろう。そういう意味では確かに〝美味しい〟クエストではあったのだが……
「でもさリーダー、元βプレイヤーで魔法をそれなりに扱ってきたあたしたちがあそこまで苦戦したんだから、結構大変なクエだとも言えるんじゃない?」
と、尤もらしい事を宣うたのは、メンバーの一人でサフランという名の少女であった。後付けで【召喚術】を取得している。
「そうであるとも、そうでないとも言えるわね」
意味ありげな台詞を放ったカナに、全員の視線が集中する。
「ねぇねぇカナちゃん。どういう事?」
「バーバラ師匠が言ってたでしょう? 〝一回でできるとは思っていなかった〟って。つまり、弟子入りの試験は一度きりという訳じゃなく、少なくとも何度かは受験できるんじゃないかしら?」
「あぁ……そう言えば……」
「そんな事も言ってたような……」
相変わらずこういう方面には注意力の乏しいメンバーに苦笑しつつ、カナはもう一つ気になっていた事を指摘する。
「あと、クエストがクリアーになったタイミングも気になるわね。各人が【魔力操作】を取得した時点でそれぞれクリアーになるんじゃなくて、全員が取得した時点でクエストクリアーになったという事」
「あ~……」
「パーティクエスト扱いになってた訳かぁ……」
「マックス」の場合は、訓練場に赴いたメンバーのうち二人だけが弟子入りクエストを受ける事になり、その内容もそれぞれ違っていたという。
「確かに気にはなるけど……今のところはどうしようもないよね?」
「えぇ。弟子入りクエスト自体、βテストを含めてもあまり多くないようだし、検証できるのはまだ先になるでしょうね」




